2008年05月14日

バッハを弾くピアニスト

ほとんどのピアニストは少なからずバッハのクラヴィーア曲をレパートリーにしていると思いますが、ではどういうピアニストのことをバッハ弾きと言えるのでしょうか。一つの客観的な指標として、曲集などを全曲、体系立てて研究し録音してきているピアニストはバッハ弾きと言えると思います。そこで、私が持っているCDを眺めてみて、平均律全2巻全曲またはゴルトベルク変奏曲と、その他に2枚以上バッハの曲集を収録しているという条件で、バッハ弾きと言えるピアニストを抽出してみました。このページを目次としながら、少しずつこれらのピアニストとそのCDについて紹介していきたいと思います。

  • アンジェラ・ヒューイット(Angela Hewitt)
  • アンドラーシュ・シフ(Andras Schiff)
  • マレイ・ペライア(Murray Perahia)
  • マリア・ティーポ(Maria Tipo)
  • ヴォルフガング・リュプサム(Wolfgang Rubsam)
  • イーヴォ・ヤンセン(Ivo Janssen)
  • ヴラジーミル・フェルツマン(Vladimir Feltsman)
  • セルゲイ・シェプキン(Sergei Schepkin)
  • アンドリュー・ランゲル(Andrew Rangell)
  • アレクシス・ワイセンベルク(Alexis Weissenberg)
  • カール=アンドレアス・コリー(Karl=Andreas Kolly)
  • イェルク・デームス(Jörg Demus)
  • 高橋悠治(Yuji Takahashi)
  • 園田高弘(Takahiro Sonoda)
  • グレン・グールド(Glenn Gould)
  • ロザリン・テューレック(Rosalyn Tureck)
  • フリードリヒ・グルダ(Friedrich Gulda)
  • ミェチスワフ・ホルショフスキ (Mieczysław Horszowski)
  • ギュンナー・ヨハンセン(Gunnar Johansen)
  • スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter)
  • タチアナ・ニコラーエワ(Tatiana Nikolayeva)
  • アナトリー・ヴェデルニコフ(Anatoly Vedernikov)
  • マリア・ユーディナ(Maria Yudina)
  • サムイル・フェインベルグ(Samuil Feinberg)
  • エドヴィン・フィッシャー(Edwin Fischer)

※挙げもれているもの、または私が知らない名演奏家もいるかと思います。他に挙げるべきピアニストがいればご教示下さい。

2008年05月02日

コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766

コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766
Chorale Partita 'Christ, der du bist der helle Tag' BWV 766

先日の記事で取り上げた「バッハの主題による幻想曲」の中心となるバッハの原曲、コラールパルティータ「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766が、ストラーダルが手稿譜として残した編曲の中に含まれています。この曲も私が浄書したので、その一部をMIDIファイル付きで紹介します。

曲の構成としては、まずコラールの主題を提示し、その後6つの変奏が繰り広げられ(全部で7つの変奏)、最後に主題が回帰します。原曲のオルガンでも第6変奏までは手鍵盤のみで演奏でき、最後の第7変奏でペダルに主題が現れ5声で力強く締めくくられます。以下の楽譜は、ストラーダル編のコラール主題部です。

コラール主題midi
Theme - Chorale Partita 'Christ, der du bist der helle Tag' BWV 766

ストラーダルの編曲では、第1~第6変奏の途中までは比較的おとなしく、強弱やペダル記号の追記以外はほとんど原曲と同じです。あたかもクラヴィーア曲のような趣ですが、第6変奏の途中から次第に和音が拡大され、第7変奏で盛り上がりの頂点を築きます。以下の楽譜が第7変奏、一見複雑そうに見えますが、演奏はさほど難しくありません。特にこの第7変奏は強弱の対比も見事で、ピアノで演奏することにより、より華やかさが前面に出ると思います。なおこの第7変奏も、ブゾーニの「バッハの主題による幻想曲」で使われています。

第7変奏midi
7th Vars. - Chorale Partita 'Christ, der du bist der helle Tag' BWV 766

バッハのオリジナル曲で、ゴルトベルク変奏曲が圧倒的な存在感を示しているとはいえ、モーツアルト等の後世の音楽家と比べてピアノで演奏できる変奏曲の数が少ないのは事実です。こうしてピアノでバッハの変奏技法を楽しむというのも一興だと思います。

2008年04月27日

『音楽の玉手箱~露西亜秘曲集~』より

最近入手した有森博 氏のCD、「音楽の玉手箱~露西亜秘曲集~ 」がとても良く、また面白かったので紹介したいと思います。CDの内容はロシアの知られざる佳曲を選りすぐって収録しているもので、聴いたことのある曲から初めて聴く曲まで、民族色の強い曲などもあり大変楽しめます。曲目はAmazonのリンクをご参照ください。

これらの収録曲の中にバッハのピアノ編曲、G線上のアリアが収録されており、それがまた秀逸。ニコライ・ヴィゴードスキー(Nikolai Wigodsky, 1900-1939)による編曲で、楽譜は見たことがあったものの今までほとんど情報がありませんでした。これがプロの演奏で聴けるとは思ってもいませんでした。楽譜は3段(高音・中音・低音部)になっていますが、ちょうど二本の手で弾けるように編曲されており、かつ声部が見やすくなっています。以下の楽譜はその冒頭部分です。
Bach=Wigodsky/ Air from Orchestral Suite No.3 BWV 1068

興味深いのは、前半・後半ともに繰り返し部分でメロディーラインが中音部に現れるのです。
A - A' - B - B' と表記すると、A'とB'のメロディーを中音部で演奏しており、この部分の響きがとても新鮮で、ありがちな編曲と一線を画しています。(さらなるアレンジとして、A - A' - B' - B と演奏するのも良いかなと思いました)
Bach=Wigodsky/ Air from Orchestral Suite No.3 BWV 1068

ライナーノーツにもチェロによる響きをイメージさせると書いてありましたが、確かにその通りで、例えばカザルスやヨーヨーマがチェロで弾いた演奏がありますが、それと似た感じになります。そして何より、この有森氏の演奏が素晴らしいです。譜例を出して言葉で説明するのは易しいですが、これを確かに演奏するためには繊細なコントロールが必要でしょう。静かに聴き入ってしまう名演です。

何にせよ、このCDには大変楽しませてもらいました。


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2008年04月18日

新発見の曲を、早速ピアノで

バッハの初期オルガン作品が発見されたとのことで、早速この曲をピアノで弾いてみることにしました。昔、ブゾーニは「オルガンの3段譜を見ても、頭の中で編曲し即座にピアノで弾けるようになれ」と言っていたようですが・・・とりあえずピアノ2段譜に編曲(音に手は加えてませんが)してみました。オリジナルなオルガン譜は誰かが作っていると思いますが、さすがにまだピアノ編曲は誰もしてないのでは?!

コラール・ファンタジー「主なる神、我らの側にいまさずして」 BWV 1128
Bach=Tanaka/ Piano Arrangement of Chorale Fantasia BWV 1128

まだ10小節くらいまでしかできてませんが、何とかピアノでも弾けそうです。MIDIファイルmidiにもしてみました。まだこの曲の全体は手に入ってませんが、ぜひピアノで弾いてみたいです(オルガンないので・・・)。

2008年04月17日

新たな初期オルガン作品の写本発見(!?)

このようなニュースが飛び込んできて、大変驚いております。

バッハ:新たな初期オルガン作品の写本発見」(毎日新聞)

どのような曲なのか、早く聴いてみたいです。そしてピアノでも弾いてみたいです。

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追加情報です。目録番号が付けられ、曲名はこうなるようです。

コラール・ファンタジー「主なる神、我らの側にいまさずして」 BWV 1128

そしてハレ大学のホームページで楽譜の一部が公開されています。

2008年04月15日

アムランの弾く「バッハによる幻想曲」

今回はブゾーニの名作「バッハの主題による幻想曲」と、それが収録されたCDの紹介です。原題 "Fantasia nach J. S. Bach" と題されたこの曲は、1909年、彼の父の死に際して3日間で書かれた曲で、静かで瞑想的な土台の上に、力強くバッハのコラールが歌われます。この曲は、編曲というよりも「バッハの音楽をモチーフに作曲されたピアノ曲」という分類になると思います。引用しているのは以下のバッハのオルガンコラールです。

・コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766
・コラール「神の子は来たりたまえり」 BWV 703

ブゾーニのゆるやかに流れるような瞑想的なファンタジアで始まり、へ短調で物憂げなコラールのテーマによるコラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766 が現れます。いくつかの変奏が盛り込まれ、途中でヘ長調のコラール「神の子は来たりたまえり」BWV 703 が導入されると曲は輝かしく喜びに満ちた音楽に変わっていきますが、その後もヘ短調のコラール変奏は何度も再現され、終結部に向かって静かに安らかな眠りへと誘う、そんな音楽です。

さてこの曲の素晴らしさを最もよく伝えてくれている演奏として、アムランのCD「The Composer Pianists」を挙げたいと思います。ブゾーニの比較的有名な曲だけに、録音も多く残されていますが、私はこのアムランの演奏を凌ぐものをは未だ無いと思ってます(下で挙げるペトリを除いて)。

なお、この曲の初演を果たしたブゾーニの高弟、ペトリの録音「Busoni: Complete Recordings 」も大変素晴らしいです。クリアなサウンドで聴けたら文句なしなのですが。

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Hamelinの演奏

Petriの演奏


2008年04月12日

カンツォーナ ニ短調 BWV 588

カンツォーナ ニ短調 BWV 588
Canzona d-moll, BWV 588

ストラーダルが手稿譜として残した編曲の中に、この曲が含まれていました。
原曲はバッハの初期のオルガン曲(とされている)で、厳かな雰囲気を持つ対位法的な楽曲です。実は今まで、初期の作品だと勝手に侮っていたのかもしれませんが、この原曲はチェックしておらず知りませんでした。こんな良い曲があったとは。今回ストラーダル編曲の手稿譜を浄書することで、強くこの曲の魅力に惹かれました。まだまだこういう発見がきっとたくさんあると思うだけで、ますますバッハの音楽の研究熱があがるというものです。

曲は大きく2つの部分からなり、どちらも4声のフーガになっています。以下の譜例はそれぞれのテーマですが、テーマに関連があるのは明らかです。第1部は緩やかに展開されるのに対して、第2部は動きが感じられます。

第1部
Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 1st part

第2部
Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 2nd part

ニ短調という調性もあり、曲の雰囲気は最晩年の作品、「フーガの技法」に通ずるものがあると思います。そして対旋律としての半音階との調和が見事です。

さて、これをピアノで弾くとどうなるか。旋律・対旋律ともにピアノの音色で聴くとよりくっきりと聞こえ曲の輪郭が見えてくるので、これがまたとても魅力的です。ストラーダル編の手稿譜を浄書した副産物としてMIDIファイルができましたので、譜例と共に掲載します。機械の演奏ですが音として聞くことでイメージが伝わるかと思います。

第1部midi
Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 1st part

第2部midi
Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 2nd part

2008年04月10日

ストラーダルが残した手稿譜

ストラーダルは、以前取り上げた通り膨大な数のピアノ編曲を残しています。彼の作品リストは文献として残っていますが、その中で出版されずに手稿譜として残されている作品も多くあり、バッハの編曲は20種類を超えます。これらが手稿譜のまま忘れ去られてしまう(現に作成から100年近く経っています)のは大変残念なことです。そこで私は、これらを浄書して後世に残していきたい(大袈裟ですが)と考え、現時点で既に4曲浄書しました。追って紹介していきたいと思います。

さてストラーダルの残したピアノ編曲は、とにかく2本の手で可能な限りたくさんの音を拾おうとしており、重厚な音楽となっています。2オクターブ以上にわたる常識はずれな和音や跳躍が平気で出てくるため、楽譜通りにインテンポで演奏するのは不可能なのではないかと思わされます。他の音楽家の編曲作品と比べても、ストラーダルの編曲結果は決して傑作と呼べるものではないと思いますが、ストラーダルの魅力は、他の音楽家がピアノソロに編曲しようとは思いもしない曲の編曲をたくさん残してくれたことで、強引ですが少なくとも2段譜に収まったピアノ譜として音楽を眺めることができるのです。また、原曲の声部ごとの動きがわかるような記譜になっており、原曲をイメージしやすい編曲とも言えます。

そんなストラーダル編の手稿譜を浄書することは、ストラーダルの編曲結果をなぞるというよりも、バッハの原曲、その作曲技法を堪能できる(勉強できる)と思います。おかげで私にとって、ストラーダル編の浄書はピアノを弾くのと同じくらい楽しい作業になりました。副次的な効果として、楽譜製作ソフト・Finaleの使い方もだいぶわかってきて、入力スキル・スピードも向上しました。

バッハが先輩音楽家の楽譜を写譜することで作曲を学んでいったように、この浄書が私の編曲スキル向上に役立つともっといいなと思いつつ、気長に浄書は続けていこうと思います。


    【ストラーダルが手稿譜として残したバッハ編曲作品リスト】
  • カンタータ 第12番 「泣き、嘆き、憂い、おののき」 BWV 12

  • カンタータ 第78番 「イエスよ、汝はわが魂を」 BWV 78

  • マタイ受難曲 BWV 244 より 合唱「われらは涙してひざまずき」

  • ヨハネ受難曲 BWV 245 より 合唱「安らかにお眠りください、聖なる亡骸よ」

  • 7つのオルガン曲
     1. カンツォーナ ニ短調 BWV 588
     2. 前奏曲 イ短調 BWV 569
     3. フーガ ト短調「小フーガ」 BWV 578
     4. フーガ ロ短調「コレッリの主題による」 BWV 579
     5. フーガ ハ短調 BWV 575
     6. トリオ ニ短調 BWV 583
     7. 幻想曲 ハ短調 BWV 562

  • パストラーレ ヘ長調 BWV 590

  • コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766

  • コラールパルティータ 「おお神よ、汝義なる神よ」 BWV 767

  • コラールパルティータ 「喜び迎えん、慈しみ深きイエスよ」 BWV 768

  • トッカータ 嬰ヘ短調 BWV 910

  • トッカータ ハ短調 BWV 911

  • トッカータ ホ短調 BWV 914

  • 前奏曲 変ホ長調(第1版) ~ 無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV 1010 より

  • 前奏曲 変ホ長調(第2版) ~ 無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV 1010 より

  • 管弦楽組曲 第1番 ハ長調 BWV 1066

  • 管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV 1067

  • 管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV 1068

  • モテット「われは憂い多く」による序奏とフーガ(リストによるオルガン編曲による)
       (カンタータ 第21番より)


2008年04月02日

カンタータ第182番より第1曲「ソナタ」

カンタータ 第182番 「天の王よ、汝を迎えまつらん」 BWV 182 より 第1曲「ソナタ」
'Sonata' from Cantata No.182 "Himmelskönig, sei willkommen" BWV 182

私が完成させた4曲目の編曲作品です。2007年の秋ごろに思い立って作り始め、少し時間に余裕ができた今年の3月に完成させました。前作のカンタータ第106番のソナティナに続き、この原曲もリコーダーが活躍するほのぼのとした曲で、器楽のみの編成の楽曲です。このゆったりとした付点リズムには、イエスがロバに乗ってエルサレムに入城する歩みという情景描写があるようです。

さて、下の楽譜は私の編曲の冒頭部分です。バスのピッチカートは、ほとんどが10度のアルペッジョとして編曲しました。そこそこ手を大きく広げられる人でないと演奏難易度が増すかもしれません。また付点リズムの歩みは主に右手で演奏しますが、その中に聞こえてくる和声を少し付け足しています。ヴァイオリンとリコーダーの二つの旋律が絡み合う部分は、中音部を左右の手で分担します。アルペッジョの最高音が中音部のメロディーの一部を形成するので、メロディーラインを意識しやすいと思います。

Bach=Tanaka/ Sonata from Cantata No.182 BWV 182
(Bach=Tanaka/ Sonata from Cantata No.182 BWV 182)

以下は曲の後半~結尾部です。今回もピアノの高音部を使いました。私はリコーダーの高い音を聞くとピアノの高音部オクターブを連想するのです。結尾部は音こそ多いものの、フォルテにはせずに静かに、豊かな響きをイメージしました。

Bach=Tanaka/ Sonata from Cantata No.182 BWV 182

この編曲はまだ人前で弾いた録音がないため、とりあえずコンピューターによる演奏(MIDIファイル)を載せておきます。midi(MIDI)

2008年03月30日

カンタータ 第106番 より 第1曲「ソナティナ」

カンタータ 第106番 「神の時こそいと良き時」 BWV 106 より 第1曲「ソナティナ」
'Sonatina' from Cantata No.106 "Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit" BWV 106

私がピアノソロに編曲した3作目です。この編曲も去年何度か人前で演奏させてもらいましたので、その時の録音を載せます。recording

このカンタータはバッハの最初期のカンタータの一つで、原曲はヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音の歩みの上で、2本のリコーダーが同じ音形を一致させたりずらしたりしながら静かに奏でられます。メロディーが美しいというよりもリコーダー二重奏の響きが朴訥とした雰囲気を作り出しており、心が洗われる名曲です。

編曲にあたって、ピアノ特有の響きと広い音域を活かしながら、リコーダーデュオの対話がピアノで単調になってしまわないように気をつけました。そして通奏低音部も響きを豊かにする工夫として、2拍目または4拍目をオクターブ下にしました。下の楽譜は冒頭部分です。

そして曲が進むにつれ、少しずつ使う音域を広げていきました。リコーダーの二重奏は、音だけを拾うと全く同じ動きになってしまいますが、奏者ごとにずらして吹いているところの自然の変化を表現するために、オクターブ上や下の音を織り交ぜて変化をつけてみました。

バッハのカンタータは本当に音楽の宝庫だと思います。このカンタータは、実は伯父の葬儀のためにかかれた曲とされており、第1曲は幸せな浄土への旅立ちを描いているようです。このことに限らず、バッハのカンタータには宗教的な理解が必要とされていますが、残念なことに私にはまだその点の教養・感覚を持っておりません。将来的にキリスト教を知ってからバッハのカンタータに立ち戻る機会があれば、きっとまた違った魅力を感じられるのかもしれません。今のところは、絶対音楽として主観的に良いと思った曲を気軽に楽しみたいと思っています。

2008年03月28日

音楽のささげもの トリオソナタ より 第1楽章「ラルゴ」

音楽のささげもの BWV 1079 トリオソナタ より 第1楽章「ラルゴ」
1st. movement 'Largo' - Trio Sonata from Musical Offering BWV 1079

私が二つ目に完成させた(曲の最後まで編曲を行えた)曲です。正しくは、4楽章全てを編曲しようとして、まず第1楽章を編曲し終えたけれども、続く第2楽章が難しすぎて頓挫しているというところです。王の主題が現れる第2楽章からがこのトリオソナタの美味しい所なのですが・・・

原曲はフルート、ヴァイオリン、通奏低音。この編曲ではヴァイオリンを1オクターブ低く演奏することでメロディーの衝突を回避しています。下の楽譜がその冒頭部分です。ヴァイオリンパートは右手と左手で分担します。
Bach=Tanaka/ Trio Sonata 1st. mov. 'Largo' from Musical Offering BWV 1079

下の楽譜は、曲中の頂点の部分です。低音・高音ともにオクターブ和音として増強して、響きを豊かにしてみました。
Bach=Tanaka/ Trio Sonata 1st. mov. 'Largo' from Musical Offering BWV 1079

この曲もまだまだ改善の余地がたくさんあると思いつつ、人生長いのでまた経験を積んでから戻ることにしたいと思います。そしていつかは残りの2~4楽章も通して弾けるようにしたいものです。

2008年03月26日

ドッペルコンチェルト より 第2楽章「ラルゴ・マ・ノン・タント」

2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV 1043より 第2楽章「ラルゴ・マ・ノン・タント」
'Largo ma non tanto' from Concerto for two violins in D Minor BWV 1043

私が初めて自分でピアノ編曲・楽譜化を試みた曲です。昔から2台のヴァイオリンが美しく絡み合うこの第2楽章は大好きでした。2006年の秋に編曲に取り組みはじめ、初冬に完成させました。2007年の各種演奏会では何度か弾かせてもらいましたので、その時の録音を載せようと思います。recording
(テクニックが足りないため思ったように表現できていません。テンポも落ち着かず、曲の頂点となる部分で致命的なミスタッチもあります)

さて、どのように編曲したかを簡単に書きとめておこうと思います。当時は楽譜作成ソフトのFinaleもまだうまく使いこなせなかったので、まずはルーズリーフの五線譜に手書きで譜面を作り、それをFinaleに打ち込んでいきました。(今では考えられませんが、一音一音マウスで選択しながら楽譜を書いていました)
原曲は2台ヴァイオリンによる2声の旋律と通奏低音が基本となっています。編曲の基本方針としては、一番高い声部を右手で、通奏低音を左手でそれぞれ演奏し、あとはもう一つの旋律を右手・左手を使い分ける、といった簡単なものです。ただし、どうしても2つのヴァイオリンは同じ音域を演奏するのでメロディを弾き分ける(聴き分ける)のが難しいだけでなく音楽としても面白みに欠けます。そこで、旋律をオクターブ上や下に移動することで、接近した同じ音域での旋律の衝突を少なくし、曲想に変化を与えました。たとえば下の楽譜は冒頭部分ですが、3小節目までが本来の音域ですが、4小節目から1つ目のメロディー(2nd Vn.)をオクターブ下に移し、1st Vn.のメロディーはオクターブ和音に変えています。これはクレッシェンド効果も狙っています。
Bach=Tanaka/ Largo ma non tanto from Concerto for two violins BWV 1043
(Bach=Tanaka/ Largo ma non tanto from Concerto for two violins BWV 1043)

また、ピアノは高音域で輝かしい音色が出せるため、しつこくならないと思う範囲で高音部のオクターブ和音を盛り込みました。たとえば下の楽譜の1・2小節目では2つのヴァイオリンのメロディーを分けるために高音部のオクターブ和音を用い、また3・4小節目では曲の頂点に向かって高音部を多用しています。(私の録音ではここで大きなミスをしてるのです・・・)
Bach=Tanaka/ Largo ma non tanto from Concerto for two violins BWV 1043

そして下の楽譜は、私が最も気に入っている結尾部です。ずっしりした低音の支えの上に高音部の16分音符が流れる中、左手のアルペッジョの頂点で中音部が浮かび上がるようにしました。
Bach=Tanaka/ Largo ma non tanto from Concerto for two violins BWV 1043

素人の習作ながら、自分なりに何度も練り直して作ったので、とても愛着を感じています。数年後にもう少し編曲スキルが向上した後に見直して、より良いピアノ編曲作品として残せればいいなと思っています。

2008年03月24日

My Arrangement

探せば探すほど、また新たに見つかる度に、バッハのピアノ編曲はまだまだ世の中に数多く眠っていると思わされるのですが、バッハのカンタータや室内楽曲を聴いていて、自分でピアノで弾いてみたいなと思う曲ごとに必ずしもピアノ編曲があるわけではありません。過去の一流音楽家が良い編曲を残してくれていればよいのですが、無いものは自分で作るしかないということで、一昨年くらいから編曲にチャレンジしはじめました。

そんな私、音楽を専門的に学んだことがあるわけではないので、すべて「見よう見まね」でやりはじめました。バッハのピアノ編曲作品の楽譜は多種多量に観察してきたという自負が唯一の支えです。といってもブゾーニやラフマニノフ等の優れた編曲手法などは、見よう見まねでできるものではないでしょうが、「こういう変化をつけると聞き手への効果が高いだろう」という私の主観から抽出したエッセンスを少しずつ盛り込みながら、あとは何十年という経験を積めばだんだん自分のものになっていくのではないか、という長期的かつ楽観的思考で細々と続けています。最近完成させたものを含めて、今まで4曲を編曲してきましたので、今後何回かに分けてそのエピソードと自分なりのこだわりを紹介していきたいと思います。


    <編曲作品リスト(2008/3/24時点)>
  1. 2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV 1043 より 第2楽章「ラルゴ・マ・ノン・タント」 (2006.11)

  2. 音楽のささげもの BWV 1079 トリオソナタ より 第1楽章「ラルゴ」 (2006.12)

  3. カンタータ 第106番 「神の時こそいと良き時」 BWV 106 より 第1曲「ソナティナ」 (2007.5)

  4. カンタータ 第182番 「天の王よ、汝を迎えまつらん」 BWV 182 より 第1曲「ソナタ」 (2008.3)


2008年03月19日

Bach Performance on Piano (Hewitt)

先日リリースされた、アンジェラ・ヒューイットのDVD「Bach Performance on Piano」の紹介です。

ヒューイットが、バッハを現代のピアノで演奏するための基礎から応用まで、演奏を交えて解説してくれています。実際にヒューイットの弾くピアノで演奏方法とその効果が聞けるので、とても説得力があります。(日本語字幕もあります)

ピアノが無かった時代のバッハの音楽を、現代ピアノの表現力をもって演奏するにはどうすべきか。まさに私が興味を持っている分野で、このページのメインテーマでもありますが、自他共に認めるバッハ一人者であるヒューイットによって見事に最適解の一例が出されています。レクチャーは約150分、密度の高い内容だと思います。

なおこのDVDは2枚組みで、1枚目に上述のレクチャー、2枚目には演奏会でのライブ映像が収録されています。曲目は、パルティータ第4番、イタリア協奏曲、半音階的幻想曲とフーガです。ピアノはファツィオリです。


----(ご参考)Amazonでの入手方法----

(※リージョンコードの違いにご注意下さい)

2008年03月09日

リフシッツのピアノで弾く「音楽のささげもの」

先月末に発売されたばかりのCD、「Bach: Musikalisches Opfer」がなかなか面白い内容でしたので紹介します。
バッハの作品の中で謎かけの多い「音楽のささげもの BWV1079」の中から、3声・6声のリチェルカーレ、カノン、トリオソナタをコンスタンチン・リフシッツ(Konstantin Lifschitz, 1978-)のピアノ演奏で聞くことができます。3声・6声のリチェルカーレはピアノでも演奏できるのでニコラーエワをはじめいくつかの録音で聴くことができますが、種々のカノンやトリオソナタを含めてピアノで演奏しているのはこれが初めてではないでしょうか?(もし他にピアノで演奏している録音があれば教えてください)

それにしてもトリオソナタはどうやって一人で弾いているのか?と思い注意深く聴いてみると、どうやら多重録音で一人で二台ピアノ(連弾?)の演奏としているように思われます。CDのライナーノーツにも特にそういった記述は見当たらなかったので、どの曲がソロで弾いていてどの曲が多重録音なのかよくわからないのですが・・・ピアノの音色が好きな私としては、たとえ多重録音であったとしても、「音楽のささげもの」がピアノの響きで聴くことができるというこのCDの意義は非常に大きいものです。

なおこのCDには、他には前奏曲とフーガ 変ホ長調 BWV 552と、フレスコバルディの3つのトッカータの録音も収められています。

----(ご参考)Amazonでの入手方法----

2008年03月03日

Exquisite Rarities Of Piano Music

久しぶりの更新になってしまいました。さてこのタイトル「Exquisite Rarities Of Piano Music」というCDを手に入れ、その内容が大変興味深いものでしたので紹介します。タイトルの通り、極めて珍しいピアノ音楽ということですが、その中にバッハのピアノ編曲も収録されていました。カバレフスキー編曲のトリオソナタ 第2番 ハ短調です。CDのジャケットはこちら。
Exquisite Rarities Of Piano Music
Amazon等メジャーな通販サイトでは見かけませんが、Briosoというサイトで購入できます。注文するとCEOの丁寧なメッセージ付でCDが送られてきました。

さて、カバレフスキー編曲のトリオソナタ 第2番 ハ短調、これが非常に優れたピアノ編曲です。煌びやかな高音部、色彩感豊かな中音部、効果的な低音。ブゾーニのバッハの編曲、特にオルガン曲の編曲は、オルガンの重厚な響きとその音楽の本質をピアノで効果的に再現することに成功していると思いますが、一方でカバレフスキーのこの編曲はオルガンの響きを再現するのではなく、原曲の音楽素材をもとに効果的なピアノ曲として生まれ変わっていると思います。このような感想を持つ素晴らしい編曲は、他にはフェインベルグ編曲のラルゴが挙げられます。ぜひこういう曲は広く世に出回って欲しいものです。

<収録曲>
BR143 - Exquisite Rarities Of Piano Music
Rachmaninoff, Bach, Schubert, Mozart, and more
Tobias Bigger, piano

1. Rachmaninoff/ Polka de WR
2. Scarlatti=Granados/ Sonata in a, L 469
3. Brahms=Bigger/ Waltz op. 65a No. 3
4. Bach=Warren/ Aria "If Thou Art Near", BMV 508
5. Severac/ "Les Muletiers" from Suite "Cerdana"
6. Tchaikovsky=Wild/ "At the Ball" Op. 38, No. 3
7. Bach=Kabalevsky/ Sonata for Organ, BWV 526, Allegro
8. Bach=Kabalevsky/ Sonata for Organ, BWV 526, Largo
9. Bach=Kabalevsky/ Sonata for Organ, BWV 526, Allegro vivace
10. Faure=Cartot/ Berceuse from Suite "Dolly" op. 56
11. Medtner/ Dithyrambe op. 10, No. 1
12. Schoeck=Bigger/ Lullaby
13. Purcell=Stevenson/ Hornpipe
14. Schubert=Godowsky/ "Good Night" from "Winterreise", D 911
15. Mozart=Stradal/ Minuet from Symphony No. 40
16. Foster=Warren/ "Beautiful Dreamer"
17. Brahms=Cziffra/ Hungarian Dance No. 9
18. Handel=Wild/ Aria and Variations ("Harmonious Blacks,ith")

2007年12月04日

レスチェンコの弾くバッハ編曲

ロシアの若手ピアニスト、ポリーナ・レスチェンコがバッハの編曲モノもいくつか録音しているため、紹介したいと思います。このピアニストは、かのアルゲリッチがお勧めの新鋭の一人で、過去にEMIからリリースされた「Bach/Brahms/Chopin: Piano Recital」というCDでこの人を知りました。リストとブラームスのパガニーニ変奏曲や、ショパンの華麗なるポロネーズなどの華やかな曲のなかで、落ち着いた佇まいのラルゴ(バッハ=フェインベルグ)が演奏されます。確か2003年の別府アルゲリッチ音楽祭でもこの曲が演奏され、さらに最近では2007年7月にすみだトリフォニーでも演奏されました。NHKの連載番組「ぴあのピア」でも放映されましたが、残念ながらこのラルゴは途中でカットされてしまっていました。このラルゴは私の最もお気に入りな曲の一つですが、しかし、レスチェンコのこの曲の演奏はあまり気に入りませんでした。独立した3声のメロディーのはずが、右手のメロディー+左手の伴奏みたいに聞こえてきてしまう演奏です。またいい気分で聴いている中で突然大音量の低音が鳴り響いたりするところもいただけません。

一方で、以前の記事、リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543として、この曲についてのいろいろな解釈のCDを紹介しましたが、このレスチェンコの「Liszt Recital」(このアルバムはハイブリッド・タイプのSACDです)に収録された同曲の演奏は、最も過激な解釈でかつピアノ独特の良さが出ていると思います。度を越した自由な溜めや、踏みっぱなしにしたダンパーペダル。はじめてこの録音を聴いたときは相当びっくりしました。原曲を敢えて思い出さないように聴くこと(これが大切!)で、自然なピアノ曲として聴こえてきます。こんなリストの曲がありそうです。このCDではリストのソナタやファウスト・ワルツなども驚異的なテクニックで魅せます。前述のラルゴはイマイチでしたが、前奏曲とフーガ イ短調の演奏は一聴の価値アリです。今後他のバッハの超絶技巧編曲もぜひ手がけて欲しいものです。

Liszt Recital収録曲目
バッハ=リスト/前奏曲とフーガ イ短調
バッハ=ブゾーニ/シャコンヌ
・グノー/リスト/歌劇『ファウスト』のワルツ
・リスト/ピアノ・ソナタ ロ短調

Bach/Brahms/Chopin: Piano Recital収録曲目
・リスト/スペイン狂詩曲
・クライスラー=ラフマニノフ/愛の悲しみ
・ショパン/ロンド 作品16
・ブラームス/パガニーニ変奏曲
バッハ=フェインベルグ/ラルゴ
・リスト/パガニーニ練習曲 第6番
・ショパン/アンダンテスピアナートと華麗なるポロネーズ

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2007年11月28日

ニコラーエワの初出ライブ録音

オリジナルのバッハの曲の話題です。最近発売された、久しぶりのニコラーエワの初出ライブ録音、「Bach: Goldberg Variations」が良かったので紹介します。

1986年11月10日、ロンドンでのライブ録音で、音質も良いです。メインはゴルトベルク変奏曲です。ニコラーエワのゴルトベルクはほかにもいくつか出てますが、これが一番迫力と熱気に溢れている録音です。(後半はミスも多くもたつくところもありますが)

アンコールでパルティータ5番のプレアンブルムと主よ人の望みの喜びよが演奏されています。このパルティータ5番のプレアンブルムがびっくり、速い。興奮気味ながら、力強く突き進み、決して崩壊することなく弾ききっています。すごい演奏だと思います、何度も聴いてしまいました。

そういえばニコラーエワのパルティータの録音は、CDになっているのはまだ4番だけです。メロディアのディスコグラフィーによると、パルティータの全曲を録音しているはずなのですが、なぜ出てこないのでしょうか。

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2007年11月25日

ウィーン旅行での収穫

しばらく更新が滞ってしまいました。11/14~21まで、ザルツブルクとウィーンへ旅行に行ってきました。ウィーンでは、バッハというよりもモーツアルトやシュトラウスが中心でしたが、観光の合間に立ち寄った楽譜店にて、持っていなかったバッハ編曲モノの楽譜を3点ほど入手しました。小品を2曲、大曲を1曲。

まずは、アレクサンドル・タロー編曲の「シチリアーノ(ヴィヴァルディの協奏曲のオルガン編曲より)」と「アンダンテ(原作者不明の協奏曲のクラヴィーア編曲より)」です。両曲ともにアレクサンドル・タローのCD「Concertos italiens 」に収録されているものです。

Bach=Tharaud/ Sicilianne from Concerto nach Vivaldi d-moll  BWV 596
(Bach=Tharaud/ Sicilianne from Concerto nach Vivaldi d-moll BWV 596)

次に大曲の方は、ファジル・サイによる「パッサカリア ハ短調」の編曲。ただ分厚い和音だけでなく高音域をよく使ったピアニスティックな編曲になっています。

Bach=Say/ Passacaglia c-moll  BWV 582
(Bach=Say/ Passacaglia c-moll BWV 582)

こちらは音源は出ていないものの、来日演奏会でも何度か演奏されており、私も王子ホールで聴きました。終演後のサイン会で私は「楽譜を出版するつもりがあるか?」という質問をしましたが、「もちろんそのつもりだ」という答えをもらっていました。SCHOTT社の「The Virtuoso Piano Transcription Series」の第12巻として今年出版されたばかりのようです。帰国後検索してみたところ、楽譜オンラインショップ di-arezzoでも入手できるようです。


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2007年10月18日

バッハの主題によるオクターブ練習曲

バッハの音楽のピアノ編曲というと、たいていは「ピアノ演奏会」用の芸術作品を目指しているもの(成功しているかどうかは別として)が多いと思いますが、今日は思い切って「練習曲」としているもので、その中でも純粋なテクニック向上のためを目的とした曲を紹介します。

フランスの名ピアニストであり名教師として有名であるフィリップ(Isidor Philipp)は、大量のバッハの編曲を残していますが、その中でも一風変わったものとして、「バッハの主題によるオクターブ練習曲 作品53」(Etudes En Octaves d'apres J. S. Bach Op.53)があります。これは、バッハの2声の楽曲を左右ともオクターブで弾かせるというものです。全15曲あり、構成(原曲との対応)は以下の通りです。

Etudes Original Works No.
第1番 2声のインヴェンション 第2番 ハ短調 BWV 773
第2番 2声のインヴェンション 第5番 変ホ長調 BWV 776
第3番 2声のインヴェンション 第8番 ヘ長調 BWV 779
第4番 2声のインヴェンション 第9番 ヘ短調 BWV 780
第5番 2声のインヴェンション 第11番 ト短調 BWV 782
第6番 2声のインヴェンション 第13番 イ短調 BWV 784
第7番 2声のインヴェンション 第15番 ロ短調 BWV 786
第8番 フランス組曲 第2番 ハ短調 「メヌエット」 BWV 813/4
第9番 フランス組曲 第2番 ハ短調 「ジーグ」 BWV 813/7
第10番 フランス組曲 第3番 ロ短調 「前奏曲」 BWV 814/1
第11番 フランス組曲 第3番 ロ短調 「ジーグ」 BWV 814/7
第12番 イギリス組曲 第1番 イ長調 「ブーレ」 BWV 806/6
第13番 イギリス組曲 第2番 イ短調 「ジーグ」 BWV 807/7
第14番 パルティータ 第3番 イ短調 「幻想曲」 BWV 827/1
第15番 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第10番 ホ短調 「フーガ」 BWV 855/2

いくつか実際に楽譜を見てみましょう。まずは1曲目、原曲はインヴェンション第2番です。

Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 1
(Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 1)

2声のインヴェンションをもとにした曲が続いた後、組曲で2声で書かれた曲が対象になっています。たとえば第12番では、イギリス組曲第1番のブーレを元にしています。

Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 12
(Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 12)

第14番では、パルティータ第3番のファンタジアです。

Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 14
(Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 14)

なおこの「Etudes En Octaves d'apres J. S. Bach Op.53」以外にも、同じアイデアの曲集があり、それは実際に私も持っています。Durandから出版されている、「Etudes d'Octaves」で、同じようにオクターブ練習曲ではありますが、クレメンティ、ショパンなどの曲を元にしています。その中に1曲バッハのインヴェンション 第14番 変ロ長調を元にした練習曲が収められており、この曲は「Etudes En Octaves d'apres J. S. Bach Op.53」には収録されていません。

Philipp/ Etudes d'Octaves No. 4 (d'apres J. S. Bach)
(Philipp/ Etudes d'Octaves No. 4 (d'apres J. S. Bach))

バッハオリジナルのインヴェンションは、技巧を習得するためだけの練習曲ではなく、作曲技法の手引きでもあり豊かな内容をもつものでしたが、ここでは純粋な技巧練習曲になってしまっています。一方でオクターブ奏法はバッハのピアノ編曲にチャレンジする上で避けて通れないものです。ピアノ編曲を演奏できるようになるためのメソッドがあるとすれば、この曲集もカリキュラムに含まれるのではないかと勝手に想像をふくらませて今回の記事は終わりにします。

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