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このブログでは今まで「更新履歴」として書いてきたような、新たに手に入れた情報の紹介をしていきます。今までの固定コンテンツだった曲目データベースとCD紹介にリンクし、ブログにたまった情報を反映していくつもりです。
なお、過去の更新履歴はこちらに残してあります。
ポルトラツキー(Poltoratsky)なる人によるトリオソナタ 第1番 変ホ長調 BWV 525の編曲を入手しました。原曲は二つの旋律と通奏低音による室内楽的な音楽を、オルガンの手鍵盤・ペダルで演奏する曲で、とりわけ爽やかな曲です。
ポルトラツキーとは全く聞いたことが無かった名前ですが、ロシアの音楽家のようです。非常に良くできた編曲だと思います。

(Bach=Poltoratsky/ Trio Sonata No.1 BWV 525)
同曲の編曲としては、他にストラーダルによる編曲があります。この楽譜を見比べるとわかるかと思いますが、ストラーダル編の方が全体的にすっきりとしているのに対し、ポルトラツキーの編曲はやや厚めの響きになっています。左右の手への振り分け方は、ポルトラツキー編曲の方が弾きやすいと感じました。

(Bach=Stradal/ Trio Sonata No.1 BWV 525)
残念ながら、これらの編曲の録音は存在しないと思われます。
今日紹介するのは、カンタータ第29番の序曲の編曲です。原曲はオルガンにトランペットやティンパニーが加わり、祝祭的な雰囲気いっぱいの曲ですが、さらにさかのぼると無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ ホ長調と同じ音楽になります。今回は出版譜として持っている以下4つの編曲を比較してみました。
まず最近手に入れたものとして、カートゥン(Leon Kartun)の編曲です。カートゥンについては何の情報も持っていません(カタカナ表記が妥当かどうかもわかりません)。

(Bach=Kartun/ Ouverture from Cantata No.29 BWV 29)
次に紹介するのは、サンサーンスによる編曲。Kartun編曲よりもオクターブを多用しているため、より派手になっています。楽譜が入手できる店は限られますが、CDはNAXOSから出ているため比較的容易に入手できます。(アマゾンではこちら→Piano Transcription)

(Bach=Saint-Saens/ Ouverture from Cantata No.29 BWV 29)
サンサーンス編よりさらに音が多いのが、ケンプ編です。こちらは日本では全音から出版されていますし、比較的手に入れやすい部類の楽譜です。
(たとえばAmazonではこちら→楽譜:バッハ=ケンプ ピアノのための10の編曲、CD:Bach Arrangements
)

(Bach=Kempff/ Prelude(Sinfonia) from Cantata No.29 BWV 29)
4つ目に紹介するのは、リストやチャイコフスキーの弟子であり、ラフマニノフの師として有名なシロティの編曲。非常にわかりやすくシンプルな編曲です。

(Bach=Siloti/ Prelude(Sinfonia) from Cantata No.29 BWV 29)
こうして4つ並べてみると、それぞれずいぶんとちがった手法で編曲しているのがよくわかります。優劣をつけるのではなく、楽しみ方が違うと私は思っています。
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Partita No.6 e-moll, BWV 830 (Busoni-Ausgabe)
バッハの楽譜で、解釈版の中でも相当異色な存在であるブゾーニ版についてお話しましょう。チェンバロにないピアノ固有の機能を使って、音楽的になるように演奏するための指示が詳細に書き込まれています。ペダルや指使い、速度表示、強弱、フレージング・スラー以外にも、低音域のオクターブ化、和音や対旋律の追加までしている箇所もあり、編曲と捉える方もいます(このページでも編曲として扱います)。これは原典主義的には大いに問題がありますが、一方で後期ロマン派巨匠のバッハ解釈を知る上では重要な資料でもあります。なおパルティータ集のブゾーニ版は、ブゾーニの高弟であるエゴン・ペトリによって編纂されました。ですので、本ページの曲目データベース上は、ブゾーニ版ですが「ブゾーニ編」ではなく、「ペトリ編」として扱います。
以下の楽譜をご覧ください。どちらもパルティータ第6番の冒頭楽章・トッカータですが、上がオリジナルで、下がブゾーニ版(ペトリ編)です。ブゾーニ版(ペトリ編)はMaestosoが指定されています。低音がオクターブ化され重くなり、応答の和音にも音が追加され響きが艶やかになっています。オリジナルへの冒涜、やり過ぎ、等といった批判が起こるかも知れません。
しかしこれはピアノで音楽的になるように演奏するための一つの解釈なのです。常に重い和音というわけではなく、軽いテクスチャを維持した部分も多く残っています。

(Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830)

(Bach=Petri/ Toccata from Partita No.6 BWV 830 (Busoni-Ausgabe))
下の楽譜はフーガの中間部です。はじめの2小節は、バスの旋律に小さい音符が付け加えられ、オクターブによる演奏が指示されています。これは、低音の響きを厚くするだけでなく、この接近した2声部に分かれた「ため息」のフレーズを明瞭に弾き分けられるという効果もあります。その後、3小節目からはオリジナルと同じテクスチャに戻ります。

(Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830)

(Bach=Petri/ Toccata from Partita No.6 BWV 830 (Busoni-Ausgabe))
ここに紹介したのはほんの一例に過ぎませんが、全曲を通して、決して派手にすることが目的ではなく、ピアノを使った場合の工夫点が楽譜上に指示されているわけです。
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<以上の記事は、パルティータ愛好会主催の演奏会で、私が出演者曲目紹介として書いたものを微修正し転用したものです。>
シロティ(Alexander Siloti)に関する書籍、「 Lost in the Stars: The Forgotten Musical Career of Alexander Siloti 」が最近届きましたので紹介します。(日本では一般にカタカナで「シロティ」と表記されますが、発音は「ジロティ」の方が近いようです。ですが、このサイトでは「シロティ」と統一しています)
シロティはリスト、アントン・ルビンシュタイン、チャイコフスキーの弟子であり、ラフマニノフの師でもあります。バッハのピアノ編曲を多く残しており、Carl Fischer社から出版されているThe Alexander Siloti Collectionにも大多数の作品が収録されています。
この本には、シロティが残したバッハの編曲作品のうち14曲を収録したCDが付録で付いています。このCDでしか聞けない編曲(2007.8時点)もいくつかあり、かなりマニアックな音源の一つです。
シロティ編曲の録音で、より手に入れやすいCDとして「Bach Piano Transcriptions - 5 」があります。このCDには、シロティのほか、ゲディケやカバレフスキー、カトワールなどロシアの音楽家による編曲が収録されています。
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無伴奏チェロ組曲 第1番。伴奏を伴わない、チェロのソロで奏でられるこの有名な曲、特に感動的な大きなうねりが表出されるプレリュードは広く世間から評価されているすばらしい曲です。チェロだからこそ表現できる渋い低音、弦楽器特有の倍音、ピアノ弾きには到底表現できない憧れの音楽です。ではこの曲をピアノで弾いたらどうなるか??チェロ譜にある音符の通り弾いてみることは可能ですが、無伴奏チェロでの演奏とは全く比較になりません。
さて、先日紹介したシロティの編曲集の中に、「無伴奏チェロ組曲による子供のための練習曲」という4つの楽章があります。その中に無伴奏チェロ組曲 第1番からプレリュードとクーラントが収録されています。これらの編曲はまさにチェロ譜にある音符を左右の手で振り分けて弾くだけのものです。タイトルに「子供のための練習曲」とある通り、あくまでも題材としてチェロ組曲の音楽を使った練習曲であり、ピアノで再現する芸術作品と呼ぶにはやや物足りないものです。

(Bach=Siloti/ Prelude from Four Etudes for the Young)
もう一つ紹介するのは、ヨアヒム・ラフ(Joachim Raff, 1822-1882)が同組曲の全楽章をピアノソロに編曲したものです。
この楽譜を見てわかるとおり、左手でチェロ原曲のうねりを演奏し、右手に新たな旋律を加えています。本来のすばらしい分散和音が、新たに付け加えられた旋律の伴奏になってしまったのです。これは、平均律 第1巻 第1番のプレリュードを元に作られたグノーの「アヴェ・マリア」と同じアイデアです。

(Bach=Raff/ Prelude from Suite for Unaccompanied Cello No.1 in G major BWV 1007)
この編曲をどのように感じますか?この編曲を聴く(弾く)には、原曲の無伴奏チェロによる演奏を忘れ去る必要があると思います。あまりにも原曲の偉大さがゆえに、いかなる編曲も受け入れられないのではないでしょうか。
しかし実際には、プレリュード、アルマンド、クーラント、サラバンド、メヌエット、ジーグまで通して非常によく編曲され、あたかもバッハのオリジナルのクラヴィーア組曲のように均整の取れたピアノ曲集になっていると思います。できる限り先入観を捨てる努力をしてこの組曲全体の編曲を聴いてみてはいかがでしょう。「無伴奏チェロ組曲第1番のピアノ編」ではなく、「組曲 ト長調」として。
CDは、Amazonでは見つかりませんでしたが、レーベル等の情報はこちらの音盤紹介ページをご参照ください。
引き続きシロティの話題です。シロティ編曲の前奏曲 ロ短調、原曲はバッハの息子のために書いたと言われる「W.フリードマンのための音楽帳」に含まれる前奏曲 ホ短調 BWV855aです。まずは原曲の楽譜を見てみましょう。

(Bach/ Prelude No.5 W. F. Bach Book, BWV 855a)
平均律 第1巻 第10番(BWV 855)の前奏曲によく似ていることはすぐおわかりでしょうか。平均律に収録された前奏曲では右手で演奏する旋律はさらに装飾されていますが、BWV 855aでは和音進行のみが記譜されています。
さて、次にシロティ編曲の前奏曲 ロ短調を見てみましょう。より音楽的な深みをもたせるために原曲のホ短調からロ短調に書き換えられています。

(Bach=Siloti/ Prelude h-moll)
また非常にゆっくりとしたテンポ指定でささやきかけるような弱音で始まり、高音部に移された分散和音の中に哀愁漂う低音のメロディーが浮き立ち、なんともロマンチックな曲になっています。
この編曲はシロティの娘、キリエナ・シロティに献呈されています。バッハの編曲モノとしてはめずらしくいろいろなCDに収録されていますが、手に入れやすいものとしては以下のリンクを参考にしてください。たとえば最近ようやくCD化された、ワイセンベルグの「バッハ:主よ、人の望みの喜びよ(ピアノ曲集)」にも収録されています。
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注文していたCD、「The art of Samuel Feinberg, Vol. 3: J.S. Bach works for clavier and organ」が届きました。フェインベルグ(Samuil Feinberg, 1890-1962)は、私の最も気に入っている音楽家の一人であり、その独特なバッハ演奏解釈は心を捕らえて離しません。私のホームページの中でも、平均律全2巻のCD紹介や、編曲集のCD紹介で書いていますので、そちらもご覧下さい。
さて、今回購入したこのCD「The art of Samuel Feinberg, Vol. 3: J.S. Bach works for clavier and organ」は、既に持っていた編曲集のCDとほとんどの曲が重複しますが、唯一初CD化された音源として、「イタリア風アリアと変奏 BWV 989」が収録されています。露メロディヤのディスコグラフィからはこの曲の存在が確認できていましたが、永らくその録音を耳にすることができないでいました。ぱっと聴いてすぐに判る、フェインベルグのクセのある演奏。今回ようやくCDで聴けて感動しています。
フェインベルグのその他の録音や作品については、こちらのページで紹介しています。ただ大半は通常手に入れるのが難しい状態です。今回取り上げたCDは、Amazonで以下のリンクから購入できます。
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ストラーダル(August Stradal, 1860-1930)、チェコのピアニストで、1860年に生まれ1930年3月13日に没しています。ブルックナーやリストの弟子に当たり、リストの名演奏家として名を馳せていたようです。この音楽家は私にとって長い間謎の存在でした。大量のピアノ編曲を残しており、バッハのピアノ編曲も膨大な数が残されています。当然ほとんどが絶版になっているため世界各地に散らばって残っているものをかき集めるしか方法がありません。その編曲作品のリストには、バッハやブクステフーデのオルガン曲、ヘンデルの協奏曲、リストの交響詩、ブルックナーの交響曲など通常ピアノ編曲など考えられないような大曲が並び、抜粋でなく全曲が編曲されておりその量に圧倒されます。ことバッハに関しても、多くのオルガン曲や、ブランデンブルグ協奏曲の全6曲など相当数の編曲を残しています。本ページの曲目データベース上も、まだすべて整理し終わっていません。
ところで、最近ストラーダルの真相に近づくひとつの契機がありました。チェコに住む音楽愛好家と知り合いになり、その彼がストラーダルについて研究していたのです。彼曰くストラーダルは国内でも忘れ去られておりほとんど知られていないそうですが、各種図書館や博物館には数多くの楽譜や自筆譜が残されているとのことでした。残された自筆譜は、出版されている編曲作品以外にも多く存在するようです。実際にいくつかの自筆譜を見せてもらいましたが、発想記号や指使い、ペダル指示等が細かく書き込まれ、かつ非常に見やすいものでした。
さて、ストラーダルの編曲手法は比較的単純で、原曲の音をできる限りたくさん拾おうとするものです。結果、インテンポで演奏するのはかなり難しい編曲になっていると思います。中には常識を超えた、2オクターブ以上にわたるアルペッジョや重音進行を多用されています。たとえば、以下の譜例はブランデンブルグ協奏曲 第1番 ヘ長調 BWV 1046のピアノソロ編です。音も多く、「重厚派手」という言葉がぴったりな編曲です。

(Bach=Stradal/ Brandenburg Concerto No.1 in F major BWV 1046)
作品によっては音を追加しているものもあれば、原曲の音をそのままピアノ譜におこしているものもあります。ある程度分類できそうですが、また後日作品を取り上げて書いていきたいと思います。
今回取り上げるのはオルガン前奏曲とフーガ ト短調 BWV 535。バッハ初期のオルガン曲ですが、当時としては冒険的な和声を使用し即興的に音楽を展開していく意欲作です。即興的でありながらも、前奏曲の中にフーガのテーマが仄めかされ、フーガの最後には前奏曲の曲想を回帰しているという全体の統一感があります。
さて、この曲のピアノ編曲としては、またまた登場するシロティによる編曲があります。ピアノの広い音域を使った派手で演奏効果がある割には比較的容易に弾ける、良い編曲だと思います。それがためか、結構多くのピアニストによって録音が残されています。その中でも、ネルソン・フレイレのライブ録音「Nelson Freire en Concert」にアンコールピースとして収録されているものは、熱気が伝わってくるすばらしい録音です。その他にも、「Bach for Christmas
」(→本ページのCD紹介)や、「 Lost in the Stars: The Forgotten Musical Career of Alexander Siloti
」にも収録されています。楽譜は、Carl Fischer社から出版されているThe Alexander Siloti Collectionに含まれています。以下は、シロティ編の前奏曲の冒頭部分です。

(Bach=Siloti/ Organ Prelude in G minor BWV 535)
シロティ編の最大の難点は、前奏曲のみ抜粋ということです。最初に述べたとおり、前奏曲にフーガのテーマが出現していることなどからも、前奏曲とフーガを通して演奏したいところです。
一方で、タチアナ・ニコラーエワのCD「バッハ:小プレリュードと小フーガ」には、ニコラーエワ自身の編曲でこの前奏曲とフーガが通して演奏されています。シロティ編よりも音の厚さはないものの、端正な美しさのある演奏です。
さて、先のシロティ編は、楽譜に書いてある情報によるとテオドール・サーントによる編曲の改編とあります。長い間このサーント編を探していたのですが、最近ようやく海外の音楽愛好家から複写を手に入れることができました。 なんと、その元となったサーント編は、フーガまで通して編曲されていたのです。以下がフーガの冒頭部分です。

(Bach=Szanto/ Fugue from Organ Prelude and Fugue in G minor BWV 535)
これが、フーガの後半部ではこのような分厚く華やかな展開を見せます(2小節目のバスにテーマが現れています)。まるでブゾーニによる豪華爛漫なバッハの編曲を想起させます。そう、サーントはブゾーニの弟子なのです。

(Bach=Szanto/ Fugue from Organ Prelude and Fugue in G minor BWV 535)
残念ながらこのサーント編の録音は無いと思われます。腕の立つピアニストに録音してもらいたいところです。ただ、シロティの前奏曲の改編は、バッハ=ブゾーニのシャコンヌのシロティ改編版のように元編曲より音を減らして再構築しているものですが、音を減らして単純化しただけでなく、音楽的にはより洗練されているように見受けられます。サーント編はとにかくたくさんの音が詰め込まれていますが、シロティ編の楽譜の方が保続音の響き方等、よりシンプルに効果を出せると思います。こう見ると、やはりシロティの改編がフーガを伴っていないのが残念でなりません。
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今回は、ワイセンベルグのバッハ編曲集CD「バッハ:主よ、人の望みの喜びよ(ピアノ曲集)」の紹介です。ソースは1970年代の録音で仏EMIから発売されたレコードに収録されていたもので、当時LP収録曲に加え1曲、半音階的幻想曲とフーガが追加されています。
収録曲はブゾーニ編曲のシャコンヌやトッカータとフーガ ニ短調、リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調、「主よ、人の望みの喜びよ」などの有名な編曲が中心ですが、めずらしい編曲としてはルストナー(Lüstner)によるシチリアーノの編曲が収録されています。LPの収録曲には「ルストナー編曲」と明記されていましたが、CD上は記載がありませんでした。かろうじて曲目解説の文中に一言載っていただけです。ただ、このルストナーによる編曲作品の録音が珍しいというだけで、音楽的にはその他の有名な編曲(たとえばケンプ編やシロティ編)と大差はありません。
収録曲全体として、完成されたテクニックを持つ超一流ピアニストによる演奏ですので、安心して聞くことができます。ピアノらしい硬質なバッハがここにあります。「主よ、人の望みの喜びよ」は、曲全体を通してクレッシェンドしていくような解釈を見せ、聞き慣れたヘス編も一風変わって聞こえてきます。コラール前奏曲「来たれ,異教徒の救い主よ」やトッカータとフーガ ニ短調では、ワイセンベルグの持つ技巧あっての決然としたピアノ音楽が繰り広げられます。
シャコンヌと前奏曲とフーガ イ短調が規模・内容ともにこのCDのメインといえる録音ですが、他のピアニストによる録音とは一味違った、ドラマを感じさせる演奏です。一言で言ってしまうとロマン派的解釈ですが、編曲者の意図するところに非常に近いのではないでしょうか。シャコンヌはゆったり始まりますが、変奏が進むにしたがって音量・速度ともに盛り上がっていきます。長調の中間部前の山場では物凄い速さに達しますが、演奏者は何食わぬ顔で弾き進めて行き、聞き手はその魅力にどんどん吸い込まれていきます。リスト編の前奏曲とフーガ イ短調も同様に、盛り上がるところではここぞとばかりに重い重低音を響かせたり、高音を煌びやかに鳴らしています。
バッハのピアノ編曲の録音としては、シャコンヌのような有名曲ならまだしも、一流はあっても超一流ピアニストによる録音は少ないのが実情です。収録曲としてもバッハのピアノ編曲の中でメジャー曲をカバーしており、メジャーレーベルから発売されているバッハのピアノ編曲集CDとして、価値のある一枚だと思います。またバッハの音楽として聞くと大げさな表現と感じる方はいるかと思いますが、ピアノ好きにとっては聴いているとワクワクさせられる演奏であるのは間違いありません。
収録曲は以下のとおりです。
1. カンタータ第147番BWV147~コラール「主よ,人の望みの喜びよ」 (ヘス)
2. コラール前奏曲「来たれ,異教徒の救い主よ」BWV659 (ブゾーニ)
3. コラール前奏曲「いまぞ喜べ,愛するキリストの信者たちよ」BWV734 (ブゾーニ)
4. フルート・ソナタ第2番BWV1031~シチリアーノ (ルストナー)
5. プレリュードとフーガ イ短調BWV543 (リスト)
6. コラール前奏曲「我,汝を呼ぶ,主イエス・キリストよ」BWV639 (ブゾーニ)
7. 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調BWV1004~シャコンヌ (ブゾーニ)
8. トッカータとフーガ ニ短調BWV565 (ブゾーニ)
9. プレリュード ロ短調BWV855a (シロティ)
10. 半音階的幻想曲とフーガ ニ短調BWV903
今回もCDの紹介です。私がバッハのピアノ編曲に興味を持つようになるきっかけのCDで、特別な存在です。本体のホームページでも既に紹介していますが、この素晴らしい録音についてはあらためてここで取り上げたいと思います(1曲ごとに紹介するので、何回かに分けて書いていきます)。「Transcendental Bach」、日本語で言うならば「超絶技巧バッハ」で、CDのタイトル通り、超絶技巧をもってして初めて達成し得るバッハのピアノ音楽がここにあります。演奏はThomas Labe。
収録曲はすべてバッハの無伴奏弦楽器曲のピアノ編曲ですが、聴く前にはまず原曲の無伴奏曲のイメージは頭から捨て去る必要があります。原曲の(精神的に素晴らしい曲だという)先入観があると「こんな曲のはずがない」 というマイナスイメージを抱いてしまう可能性があるためです。
CDを頭から聴いていきましょう。まずはゴドフスキー編曲の無伴奏チェロ組曲 第5番より 前奏曲とフーガです。楽譜を見ると、原曲の持続音の部分はほとんど対旋律で埋め尽くされ、執拗なまでのオクターブの低音の連続がありますが、演奏は決して重くなりすぎず、 原曲の持つ魅力とは全く別の新たな命が吹き込まれています。特にフーガでは、新たに追加された対旋律によって響きが艶やかに彩られ、大変魅力的な曲となっています。

(Bach=Godowsky/Prelude and Fugue from Suite No.5 for violincello solo BWV 1011)
本来の組曲ではこの前奏曲のあとに舞曲が続きますが、前奏曲があまりに荘厳に編曲されているがゆえに、続く舞曲が(原曲は良い曲であっても)おとなしく尻つぼみと感じてしまいます。このCDでは前奏曲(とフーガ)だけが収録されていますが、そのバランスを考えてのことかもしれません。(単純に演奏時間の問題かもしれませんが)
次にラフマニノフ編曲の無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第3番より 前奏曲、ガヴォットとジーグ。荘重なゴドフスキー編の前曲とうって変わって、快速で軽妙な音楽が繰り広げられます。曲想そのものが爽やかですが、一般的なピアニストが採用するテンポよりもずいぶんと速い速度で一気に演奏されます。この曲でもまたゴドフスキー編と同じように、音の流れの中に見事に追加された対旋律は、 すべて冒頭の音型から紡ぎ出されています。

(Bach=Rachmaninoff/Prelude from Partita No.3 for violin solo BWV 1006)
その後、ゴドフスキー編曲に戻ります。無伴奏チェロ組曲 第3番も、基本は休符を音で埋め尽くした感じの編曲になります。
シロティによる同曲の編曲(「無伴奏チェロ組曲による子供のための練習曲」に含まれています)と見比べてみましょう。どちらも前奏曲の冒頭部分です。

(Bach=Siloti/Prelude from Four Etude after Cello Suites)

(Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.3 for violincello solo BWV 1009)
どうでしょうか?16分音符の本来の旋律をオクターブで厚く奏し、支えるバスと新たな旋律が合体され、全く新しい曲になっています。繰り返しますが、原曲を思い出さないで下さい。この曲を組曲を通して颯爽と演奏する様がこのCDに収録されているのです。
収録曲紹介の続きは、また後日書きます。
(to be continued...)
<収録曲>
前回に引き続きThomas LabeのCD「Transcendental Bach」の紹介です。
ゴドフスキー編曲の無伴奏チェロ組曲 第2番。この曲はアンダンテ・カンタービレ、ピアニッシモでゆったりと始まります。前奏曲の冒頭には、本来の原曲に導入の2小節が追加されています。

(Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008)
前奏曲、アルマンドとゆったりとした曲想が続いた後、嵐が吹き荒れるのがクーラントです。本来のクーラントの軽やかな舞曲とはかけ離れた、激しい音楽になっています。

(Bach=Godowsky/Courante from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008)
無伴奏チェロ組曲の全楽章演奏に続くのは、今度は無伴奏ヴァイオリンソナタの方から一つの楽章の抜粋です。無伴奏ヴァイオリンソナタ 第1番より シチリアーノ。CDの中でも、重い音楽が続く中での小休止の趣があります。

(Bach=Godowsky/Siciliana from Sonata No.1 for violin solo BWV 1001)
このCDにもうひと山ありました。無伴奏ヴァイオリン曲のピアノ版として最も有名なブゾーニ編「シャコンヌ」。 恐ろしいスピードで走り抜けるこの演奏にまず驚かされます。しみじみと味わうシャコンヌを期待すると卒倒します。(同じ高速演奏でもワイセンベルグのCDで聴ける演奏の方が味わいがあります)
CDの最後は、無伴奏ヴァイオリンソナタ 第2番より アリアです。シャコンヌを弾き終え、拍手喝采の中で名残惜しくアンコールで演奏したかのような、心憎い配置です。

(Bach=Godowsky/Aria from Sonata No.3 for violin solo BWV 1003)
<収録曲>