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2007年08月25日

ワイセンベルグのバッハ編曲集CD

今回は、ワイセンベルグのバッハ編曲集CD「バッハ:主よ、人の望みの喜びよ(ピアノ曲集)」の紹介です。ソースは1970年代の録音で仏EMIから発売されたレコードに収録されていたもので、当時LP収録曲に加え1曲、半音階的幻想曲とフーガが追加されています。
収録曲はブゾーニ編曲のシャコンヌトッカータとフーガ ニ短調、リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調、「主よ、人の望みの喜びよ」などの有名な編曲が中心ですが、めずらしい編曲としてはルストナー(Lüstner)によるシチリアーノの編曲が収録されています。LPの収録曲には「ルストナー編曲」と明記されていましたが、CD上は記載がありませんでした。かろうじて曲目解説の文中に一言載っていただけです。ただ、このルストナーによる編曲作品の録音が珍しいというだけで、音楽的にはその他の有名な編曲(たとえばケンプ編やシロティ編)と大差はありません。

収録曲全体として、完成されたテクニックを持つ超一流ピアニストによる演奏ですので、安心して聞くことができます。ピアノらしい硬質なバッハがここにあります。「主よ、人の望みの喜びよ」は、曲全体を通してクレッシェンドしていくような解釈を見せ、聞き慣れたヘス編も一風変わって聞こえてきます。コラール前奏曲「来たれ,異教徒の救い主よ」トッカータとフーガ ニ短調では、ワイセンベルグの持つ技巧あっての決然としたピアノ音楽が繰り広げられます。
シャコンヌ前奏曲とフーガ イ短調が規模・内容ともにこのCDのメインといえる録音ですが、他のピアニストによる録音とは一味違った、ドラマを感じさせる演奏です。一言で言ってしまうとロマン派的解釈ですが、編曲者の意図するところに非常に近いのではないでしょうか。シャコンヌはゆったり始まりますが、変奏が進むにしたがって音量・速度ともに盛り上がっていきます。長調の中間部前の山場では物凄い速さに達しますが、演奏者は何食わぬ顔で弾き進めて行き、聞き手はその魅力にどんどん吸い込まれていきます。リスト編の前奏曲とフーガ イ短調も同様に、盛り上がるところではここぞとばかりに重い重低音を響かせたり、高音を煌びやかに鳴らしています。

バッハのピアノ編曲の録音としては、シャコンヌのような有名曲ならまだしも、一流はあっても超一流ピアニストによる録音は少ないのが実情です。収録曲としてもバッハのピアノ編曲の中でメジャー曲をカバーしており、メジャーレーベルから発売されているバッハのピアノ編曲集CDとして、価値のある一枚だと思います。またバッハの音楽として聞くと大げさな表現と感じる方はいるかと思いますが、ピアノ好きにとっては聴いているとワクワクさせられる演奏であるのは間違いありません。

収録曲は以下のとおりです。

1. カンタータ第147番BWV147~コラール「主よ,人の望みの喜びよ」 (ヘス)
2. コラール前奏曲「来たれ,異教徒の救い主よ」BWV659 (ブゾーニ)
3. コラール前奏曲「いまぞ喜べ,愛するキリストの信者たちよ」BWV734 (ブゾーニ)
4. フルート・ソナタ第2番BWV1031~シチリアーノ (ルストナー)
5. プレリュードとフーガ イ短調BWV543 (リスト)
6. コラール前奏曲「我,汝を呼ぶ,主イエス・キリストよ」BWV639 (ブゾーニ)
7. 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調BWV1004~シャコンヌ (ブゾーニ)
8. トッカータとフーガ ニ短調BWV565 (ブゾーニ)
9. プレリュード ロ短調BWV855a (シロティ)
10. 半音階的幻想曲とフーガ ニ短調BWV903

2007年08月26日

Transcendental Bach (1)

今回もCDの紹介です。私がバッハのピアノ編曲に興味を持つようになるきっかけのCDで、特別な存在です。本体のホームページでも既に紹介していますが、この素晴らしい録音についてはあらためてここで取り上げたいと思います(1曲ごとに紹介するので、何回かに分けて書いていきます)。「Transcendental Bach」、日本語で言うならば「超絶技巧バッハ」で、CDのタイトル通り、超絶技巧をもってして初めて達成し得るバッハのピアノ音楽がここにあります。演奏はThomas Labe。

収録曲はすべてバッハの無伴奏弦楽器曲のピアノ編曲ですが、聴く前にはまず原曲の無伴奏曲のイメージは頭から捨て去る必要があります。原曲の(精神的に素晴らしい曲だという)先入観があると「こんな曲のはずがない」 というマイナスイメージを抱いてしまう可能性があるためです。

CDを頭から聴いていきましょう。まずはゴドフスキー編曲の無伴奏チェロ組曲 第5番より 前奏曲とフーガです。楽譜を見ると、原曲の持続音の部分はほとんど対旋律で埋め尽くされ、執拗なまでのオクターブの低音の連続がありますが、演奏は決して重くなりすぎず、 原曲の持つ魅力とは全く別の新たな命が吹き込まれています。特にフーガでは、新たに追加された対旋律によって響きが艶やかに彩られ、大変魅力的な曲となっています。
Bach=Godowsky/Prelude and Fugue from Suite No.5 for violincello solo BWV 1011
(Bach=Godowsky/Prelude and Fugue from Suite No.5 for violincello solo BWV 1011)
本来の組曲ではこの前奏曲のあとに舞曲が続きますが、前奏曲があまりに荘厳に編曲されているがゆえに、続く舞曲が(原曲は良い曲であっても)おとなしく尻つぼみと感じてしまいます。このCDでは前奏曲(とフーガ)だけが収録されていますが、そのバランスを考えてのことかもしれません。(単純に演奏時間の問題かもしれませんが)

次にラフマニノフ編曲の無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第3番より 前奏曲、ガヴォットとジーグ。荘重なゴドフスキー編の前曲とうって変わって、快速で軽妙な音楽が繰り広げられます。曲想そのものが爽やかですが、一般的なピアニストが採用するテンポよりもずいぶんと速い速度で一気に演奏されます。この曲でもまたゴドフスキー編と同じように、音の流れの中に見事に追加された対旋律は、 すべて冒頭の音型から紡ぎ出されています。
Bach=Rachmaninoff/Prelude from Partita No.3 for violin solo BWV 1006
(Bach=Rachmaninoff/Prelude from Partita No.3 for violin solo BWV 1006)


その後、ゴドフスキー編曲に戻ります。無伴奏チェロ組曲 第3番も、基本は休符を音で埋め尽くした感じの編曲になります。
シロティによる同曲の編曲(「無伴奏チェロ組曲による子供のための練習曲」に含まれています)と見比べてみましょう。どちらも前奏曲の冒頭部分です。
Bach=Siloti/Prelude from Four Etude after Cello Suites
(Bach=Siloti/Prelude from Four Etude after Cello Suites)
Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.3 for violincello solo BWV 1009
(Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.3 for violincello solo BWV 1009)
どうでしょうか?16分音符の本来の旋律をオクターブで厚く奏し、支えるバスと新たな旋律が合体され、全く新しい曲になっています。繰り返しますが、原曲を思い出さないで下さい。この曲を組曲を通して颯爽と演奏する様がこのCDに収録されているのです。

収録曲紹介の続きは、また後日書きます。
(to be continued...)



<収録曲>


2007年08月31日

Transcendental Bach (2)

前回に引き続きThomas LabeのCD「Transcendental Bach」の紹介です。

ゴドフスキー編曲の無伴奏チェロ組曲 第2番。この曲はアンダンテ・カンタービレ、ピアニッシモでゆったりと始まります。前奏曲の冒頭には、本来の原曲に導入の2小節が追加されています。
Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008
(Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008)

前奏曲、アルマンドとゆったりとした曲想が続いた後、嵐が吹き荒れるのがクーラントです。本来のクーラントの軽やかな舞曲とはかけ離れた、激しい音楽になっています。
Bach=Godowsky/Courante from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008
(Bach=Godowsky/Courante from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008)

無伴奏チェロ組曲の全楽章演奏に続くのは、今度は無伴奏ヴァイオリンソナタの方から一つの楽章の抜粋です。無伴奏ヴァイオリンソナタ 第1番より シチリアーノ。CDの中でも、重い音楽が続く中での小休止の趣があります。
Bach=Godowsky/Siciliana from Sonata No.1 for violin solo BWV 1001
(Bach=Godowsky/Siciliana from Sonata No.1 for violin solo BWV 1001)

このCDにもうひと山ありました。無伴奏ヴァイオリン曲のピアノ版として最も有名なブゾーニ編「シャコンヌ」。 恐ろしいスピードで走り抜けるこの演奏にまず驚かされます。しみじみと味わうシャコンヌを期待すると卒倒します。(同じ高速演奏でもワイセンベルグのCDで聴ける演奏の方が味わいがあります)

CDの最後は、無伴奏ヴァイオリンソナタ 第2番より アリアです。シャコンヌを弾き終え、拍手喝采の中で名残惜しくアンコールで演奏したかのような、心憎い配置です。

Bach=Godowsky/Aria from Sonata No.3 for violin solo BWV 1003
(Bach=Godowsky/Aria from Sonata No.3 for violin solo BWV 1003)


<収録曲>


2007年09月01日

Transcriptions by Ira Levin

今日は仕事関係の研修の帰り道で、久しぶりに秋葉原の石丸電気のクラシック売り場に立ち寄り、CDを買いました。やはり店頭では、Webで見つけられないいろいろなCDに出会えます。今日買ったCDでおもしろかったのは、「Piano Transcriptions by Ira Levin」です(帰ってきて調べたらAmazonでも売っていました)。
AmazonではCDのジャケットイメージがなかったので、ここに貼り付けてみました。
Piano Transcriptions by Ira Levin

このCDには、すべて演奏者・Ira Levinによって編曲された曲が収録されています。そのうち5曲がバッハのピアノ編曲で、1曲目はトッカータ ヘ長調 BWV 540で始まります。バッハのオルガントッカータというと、まずニ短調 BWV565ハ長調 BWV564を思い浮かべますが、このヘ長調 BWV 540は規模も大きく、大胆な転調部分をメンデルスゾーンが「まるで教会が崩れ落ちようとするかのようだ」と評したそうです。

Levinの編曲は楽譜を持っていないので、代わりにダルベール編曲の冒頭を譜例として掲載します。
Bach=d'Albert/ Toccata and Fugue in F major BWV 540
(Bach=d'Albert/ Toccata and Fugue in F major BWV 540)

CDで聴けるLevinによる編曲・演奏は、素晴しいものでした。冒頭のバスFは、ソステヌート・ペダルで相当長い間鳴っており、オルガンの壮大さもよく表現されています。唯一、変だなと思うのが、原曲にない独自のアレンジが現れることです(約30小節分)。本来同じテーマが繰り返されるところですが、高音部で現代音楽風に展開され、その後また原曲に戻ります。オルガン原曲もきわめて壮麗な響きがありますが、ブゾーニによるオルガン曲の編曲のように和音は3度・6度・オクターブで増強され見事に再現されています。この曲については初めてピアノによる演奏を聴いて、あらためて良さがわかりました。この1曲のためだけにでも、このCDを買った価値があったと思っています。
なお、それ以外の曲はまだしっかり聴いてません。以下に収録曲を掲載しておきます。


<収録曲>


2007年09月06日

F.Busoni nach Bach Piano Works

今回もCDの紹介です。パドヴァ(Andrea Padova)の演奏で、「F.Busoni nach Bach Piano Works」というCDです。このピアニストは、過去にもバッハのややマイナーな幻想曲や組曲を収録したCDをいくつか出していましたが、このCDはブゾーニの編曲モノが集められています。その選曲がまた、シャコンヌやオルガン前奏曲とフーガ、コラール等の一般的な編曲ではなく、やはりマイナーな編曲が集められている点が彼らしいです。

まず、「前奏曲、フーガとアレグロ」は本来リュートのための曲とみなされていますが、そのままピアノで演奏することも可能です。原曲は短い前奏曲、中規模のフーガ、短いアレグロがそれぞれ独立した3曲としてまとめられていますが、ブゾーニは曲集の注釈の中で、フーガとアレグロをまとめて演奏することを提案しています。
Bach=Busoni/ Prelude, Fugue and Allegro BWV 998
(Bach=Busoni/ Prelude, Fugue and Allegro BWV 998)
この譜例はフーガとアレグロの移行部分。フーガの後半部で切れ目無くアレグロに移行し、アレグロの最後にフーガが厚くなって回帰するという構成で、聞いていても自然な流れになっています。つまり、「前奏曲とアレグロ付フーガ」になっているわけです。この編曲での録音は、今まではブゾーニの弟子のエゴン・ペトリによる古い録音がひとつあっただけでしたが、これでクリアなサウンドで聞けるようになったわけです。

次の「幻想曲、アダージョとフーガ」も、面白い構成の編曲です。原曲である幻想曲とフーガ BWV 906は、フーガが未完成だったこともあり一般的には幻想曲のみがよく演奏されますが、ブゾーニは未完のフーガを補筆(というか自分流に展開)させて、間にアダージョ BWV 968を挿入しています。このアダージョは無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番の第1楽章を、バッハ自身(偽作説もありますが)がチェンバロ用に編曲したものです。

もうひとつ紹介しておきたいのが、「前奏曲とフーガ、フーガと装飾」(私の勝手な直訳。原題はPreludio, fuga e fuga figurata)です。原曲は平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第5番の前奏曲とフーガ ニ長調で、ほぼそのまま前奏曲とフーガが演奏された後に、前奏曲の走句とフーガが同時に演奏されます。以下の譜例を見てください。
Busoni/ Preludio, fuga e fuga figurata
(Busoni/ Preludio, fuga e fuga figurata)

なんとうまいことを思いついたことでしょう。ブゾーニ版の平均律曲集には様々な練習のための変奏が掲載されており、このアイデアも載っています。後に、ブゾーニの曲集「若者のために」(An die Jugend)の中に収められました。

他の収録曲については、またいつか紹介します。


  • Preludio, fuga e allegro

  • Fantasia, adagio e fuga

  • Fantasia, fuga, andante e scherzo

  • Fantasia nach Bach

  • Preludio, fuga e fuga figurata

  • Fantasia in modo antico Op.33b No.4

  • Drei Albumblatter

  • 2007年09月12日

    リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543

    リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543は、数あるバッハのピアノ編曲の中でも相当有名な部類に入ると思います。情熱的な前奏曲と、均整がとれながらも盛り上がって終わるフーガがセットになっており、さらに比較的コンパクトにまとまっているためでしょうか、大変人気があります。リストの編曲集「6つのオルガン前奏曲とフーガ」の中でも、この曲だけが唯一多くのピアニストに取り上げられます。以下の譜例は前奏曲の冒頭部分です。

    Bach=Liszt/ Prelude and Fugue in A minor BWV 543
    (Bach=Liszt/ Prelude and Fugue in A minor BWV 543)

    リストの編曲は、楽譜上非常にシンプルで、ペダル指示はもとより表現記号はほとんど無いため、演奏者の解釈がとてもよく出ると思います。多くのCDが出ていますが、その中でもはっきりと性格付けがついているものを3点選んで紹介しようと思います。

    まずは以前も取り上げたワイセンベルクのCD「バッハ:主よ、人の望みの喜びよ」を。こちらはピアノならではの硬質な音で、迷いが無く決然とした演奏が聴けます。煌びやかな高音部、荘厳な重低音、ここぞとばかりに表出され聴いていてドラマを感じられる演奏です。ロマン派スタイルの演奏と言えるでしょう。

    次に紹介するケヴィン・オールドハム(Kevin Oldham)のCD「The Art Of Piano Transcription」では、うって変わってノンレガートを基本としており、あたかもクラヴィーア曲かのような端正な演奏が聴けます。原曲を知らなければ、元がオルガン曲とはわからないことでしょう。ダンパーペダルの使用も最小限にとどめているようです。

    最後に、サイのCD「シャコンヌ!~サイ・プレイズ・バッハ」です。こちらは、ワイセンベルグの解釈よりもさらに表情豊かに演奏されます。全体的にゆったりしていますが、途中でもテンポが大きく揺れ、ロマン派的なバッハが聴けます。盛り上がるところではペダルを最大限に使い轟音を鳴らします。オールドハムの演奏と比較すると、とても同じ曲とは思えません。


    ダイナミック&スピーディーなワイセンベルグの演奏、シンプル&端正なオールドハムの演奏、ゆったりとロマンチックなファジル・サイの演奏、聴き比べてみるとこんなに違う弾き方があるのかと、新たな発見があるのではないでしょうか。どのCDも比較的容易に入手可能です。


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    2007年09月14日

    トリオソナタ 第4番 BWV 528 第2楽章 「アンダンテ」

    先日の記事「Transcriptions by Ira Levin」で紹介したCDに収録されている、トリオソナタ 第4番 BWV 528 第2楽章 「アンダンテ」。この曲、とても渋い音楽ですが聴くうちに好きになってきました。以下の譜面はアンダンテの冒頭、オリジナルのオルガン譜です。ロ短調で、物憂げな4度進行の主題。そして次第に装飾されていきます。
    Bach/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528

    この曲、ピアノで弾いてもよく響きます。ストラーダルによるピアノ編曲の譜面があるので、見てみましょう。以下の楽譜は、ストラーダル編の中間部。ゆったり歩む低音の上に、二つの装飾された下降メロディが美しく絡み合います。何と切ないメロディなことでしょう。

    Bach=Stradal/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528
    (Bach=Stradal/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528)

    ストラーダルの他の編曲は非常に音の数が多く、弾きこなすのは容易ではないですが、このアンダンテはとても弾きやすく、美しいのでお勧めです。

    この曲のピアノでの演奏は、以下のリンクのCDで聴けます。

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    2007年10月03日

    トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565 (1)

    トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565は、バッハの音楽のピアノ編曲を語る上で欠かすことはできません。あまりに有名すぎて、この曲を取り上げて記事を書くのは躊躇われます。明らかに1回の記事で想いのすべてを書ききることはできないと思いましたので、続編を思わせるタイトルにしました。

    原曲はオルガン曲。タララ~と始まる激しい下降音形と、続く大量の音と早急なパッセージとで情熱的なトッカータ。間にフーガが演奏され、最後にまた激しく盛り上がるという、後世の音楽家たちにとっても、ピアノの腕自慢として弾くのにもってこいの楽想。オリジナルの冒頭はこうなっています。

    Bach/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
    (Bach/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)


    さて、私が保有するこの曲のピアノ編曲版の楽譜は20種類を超えており、まだまだ他にもどんどん出てくる気がします。今日はその中から4つほど紹介します。まずは最も有名なブゾーニによる編曲。下の方でいろいろな編曲を紹介しますが、他の編曲はピアニスティックな派手な効果を狙おうと、色々な工夫(悪あがき?)をしているのに対して、ブゾーニ編がもっとも原曲の構成に忠実です。バッハの楽譜の通りのリズムで音を配置した上で、音を分厚くしたりペダル効果をめいいっぱい使った編曲です。

    Bach=Busoni/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
    (Bach=Busoni/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)

    一方で、この曲のピアノ編曲としては草分け的な存在なのが、タウジッヒによる編曲。出だしのトリル(A-B-A-B-A)が、現代の感覚では違和感がありますが、ブゾーニ編よりも派手で、時には原曲の音の形を変えて、ピアノならではの演奏効果を狙っています。

    Bach=Tausig/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
    (Bach=Tausig/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)

    なお、オーストラリアのピアニスト、グレインジャー(ブゾーニの弟子の一人)はブゾーニ編とタウジッヒ編の良いところを混ぜ合わせて演奏会で弾いていたようです。ハワードがその演奏をグレインジャー編として譜面に起こしており、数名のピアニストがCDに録音しています。私は、このグレインジャー編がピアノで弾いた際に最もバランスが良いと思っており、演奏会で何度か弾いたこともあります。

    続けて紹介する2曲は、比較的マイナーなものになりますが、冒頭の編曲手法の違いが如実に出ていることから紹介したいと思います。まずは、ピアニストとしては有名なコルトーによる編曲。コルトー編の楽譜は何度も店頭で見かけたことがあり、日本でも手に入りやすいものだと思います。冒頭のトリルからして、右手はA-A-Aのオクターブ移動、左手はA-G-A。下降音形も、3連符の連続。ペダル低音の上に乗る和音進行も分散和音化。冒頭部分だけを見ても、いろいろな工夫をしようとしています。

    Bach=Cortot/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
    (Bach=Cortot/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)

    次に、ストラーダルによる編曲。これまた重たい編曲で、すべてオクターブ和音で演奏されます。ペダル低音の上に乗る和音進行は、コルトー編よりもさらに派手に、広い音域のスケールで盛り上げています。続きもずっとこの調子で派手に展開されます。

    Bach=Stradal/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
    (Bach=Stradal/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)


    今日紹介したもののうち、ブゾーニ編、タウジッヒ編、グレインジャー編については以下に紹介するCDで聞くことができます。
    続きは、また別の日に書きます。


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    Busoni編

    Tausig編

    Grainger編


    2007年10月18日

    バッハの主題によるオクターブ練習曲

    バッハの音楽のピアノ編曲というと、たいていは「ピアノ演奏会」用の芸術作品を目指しているもの(成功しているかどうかは別として)が多いと思いますが、今日は思い切って「練習曲」としているもので、その中でも純粋なテクニック向上のためを目的とした曲を紹介します。

    フランスの名ピアニストであり名教師として有名であるフィリップ(Isidor Philipp)は、大量のバッハの編曲を残していますが、その中でも一風変わったものとして、「バッハの主題によるオクターブ練習曲 作品53」(Etudes En Octaves d'apres J. S. Bach Op.53)があります。これは、バッハの2声の楽曲を左右ともオクターブで弾かせるというものです。全15曲あり、構成(原曲との対応)は以下の通りです。

    Etudes Original Works No.
    第1番 2声のインヴェンション 第2番 ハ短調 BWV 773
    第2番 2声のインヴェンション 第5番 変ホ長調 BWV 776
    第3番 2声のインヴェンション 第8番 ヘ長調 BWV 779
    第4番 2声のインヴェンション 第9番 ヘ短調 BWV 780
    第5番 2声のインヴェンション 第11番 ト短調 BWV 782
    第6番 2声のインヴェンション 第13番 イ短調 BWV 784
    第7番 2声のインヴェンション 第15番 ロ短調 BWV 786
    第8番 フランス組曲 第2番 ハ短調 「メヌエット」 BWV 813/4
    第9番 フランス組曲 第2番 ハ短調 「ジーグ」 BWV 813/7
    第10番 フランス組曲 第3番 ロ短調 「前奏曲」 BWV 814/1
    第11番 フランス組曲 第3番 ロ短調 「ジーグ」 BWV 814/7
    第12番 イギリス組曲 第1番 イ長調 「ブーレ」 BWV 806/6
    第13番 イギリス組曲 第2番 イ短調 「ジーグ」 BWV 807/7
    第14番 パルティータ 第3番 イ短調 「幻想曲」 BWV 827/1
    第15番 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第10番 ホ短調 「フーガ」 BWV 855/2

    いくつか実際に楽譜を見てみましょう。まずは1曲目、原曲はインヴェンション第2番です。

    Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 1
    (Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 1)

    2声のインヴェンションをもとにした曲が続いた後、組曲で2声で書かれた曲が対象になっています。たとえば第12番では、イギリス組曲第1番のブーレを元にしています。

    Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 12
    (Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 12)

    第14番では、パルティータ第3番のファンタジアです。

    Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 14
    (Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 14)

    なおこの「Etudes En Octaves d'apres J. S. Bach Op.53」以外にも、同じアイデアの曲集があり、それは実際に私も持っています。Durandから出版されている、「Etudes d'Octaves」で、同じようにオクターブ練習曲ではありますが、クレメンティ、ショパンなどの曲を元にしています。その中に1曲バッハのインヴェンション 第14番 変ロ長調を元にした練習曲が収められており、この曲は「Etudes En Octaves d'apres J. S. Bach Op.53」には収録されていません。

    Philipp/ Etudes d'Octaves No. 4 (d'apres J. S. Bach)
    (Philipp/ Etudes d'Octaves No. 4 (d'apres J. S. Bach))

    バッハオリジナルのインヴェンションは、技巧を習得するためだけの練習曲ではなく、作曲技法の手引きでもあり豊かな内容をもつものでしたが、ここでは純粋な技巧練習曲になってしまっています。一方でオクターブ奏法はバッハのピアノ編曲にチャレンジする上で避けて通れないものです。ピアノ編曲を演奏できるようになるためのメソッドがあるとすれば、この曲集もカリキュラムに含まれるのではないかと勝手に想像をふくらませて今回の記事は終わりにします。

    2007年11月25日

    ウィーン旅行での収穫

    しばらく更新が滞ってしまいました。11/14~21まで、ザルツブルクとウィーンへ旅行に行ってきました。ウィーンでは、バッハというよりもモーツアルトやシュトラウスが中心でしたが、観光の合間に立ち寄った楽譜店にて、持っていなかったバッハ編曲モノの楽譜を3点ほど入手しました。小品を2曲、大曲を1曲。

    まずは、アレクサンドル・タロー編曲の「シチリアーノ(ヴィヴァルディの協奏曲のオルガン編曲より)」と「アンダンテ(原作者不明の協奏曲のクラヴィーア編曲より)」です。両曲ともにアレクサンドル・タローのCD「Concertos italiens 」に収録されているものです。

    Bach=Tharaud/ Sicilianne from Concerto nach Vivaldi d-moll  BWV 596
    (Bach=Tharaud/ Sicilianne from Concerto nach Vivaldi d-moll BWV 596)

    次に大曲の方は、ファジル・サイによる「パッサカリア ハ短調」の編曲。ただ分厚い和音だけでなく高音域をよく使ったピアニスティックな編曲になっています。

    Bach=Say/ Passacaglia c-moll  BWV 582
    (Bach=Say/ Passacaglia c-moll BWV 582)

    こちらは音源は出ていないものの、来日演奏会でも何度か演奏されており、私も王子ホールで聴きました。終演後のサイン会で私は「楽譜を出版するつもりがあるか?」という質問をしましたが、「もちろんそのつもりだ」という答えをもらっていました。SCHOTT社の「The Virtuoso Piano Transcription Series」の第12巻として今年出版されたばかりのようです。帰国後検索してみたところ、楽譜オンラインショップ di-arezzoでも入手できるようです。


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    2007年12月04日

    レスチェンコの弾くバッハ編曲

    ロシアの若手ピアニスト、ポリーナ・レスチェンコがバッハの編曲モノもいくつか録音しているため、紹介したいと思います。このピアニストは、かのアルゲリッチがお勧めの新鋭の一人で、過去にEMIからリリースされた「Bach/Brahms/Chopin: Piano Recital」というCDでこの人を知りました。リストとブラームスのパガニーニ変奏曲や、ショパンの華麗なるポロネーズなどの華やかな曲のなかで、落ち着いた佇まいのラルゴ(バッハ=フェインベルグ)が演奏されます。確か2003年の別府アルゲリッチ音楽祭でもこの曲が演奏され、さらに最近では2007年7月にすみだトリフォニーでも演奏されました。NHKの連載番組「ぴあのピア」でも放映されましたが、残念ながらこのラルゴは途中でカットされてしまっていました。このラルゴは私の最もお気に入りな曲の一つですが、しかし、レスチェンコのこの曲の演奏はあまり気に入りませんでした。独立した3声のメロディーのはずが、右手のメロディー+左手の伴奏みたいに聞こえてきてしまう演奏です。またいい気分で聴いている中で突然大音量の低音が鳴り響いたりするところもいただけません。

    一方で、以前の記事、リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543として、この曲についてのいろいろな解釈のCDを紹介しましたが、このレスチェンコの「Liszt Recital」(このアルバムはハイブリッド・タイプのSACDです)に収録された同曲の演奏は、最も過激な解釈でかつピアノ独特の良さが出ていると思います。度を越した自由な溜めや、踏みっぱなしにしたダンパーペダル。はじめてこの録音を聴いたときは相当びっくりしました。原曲を敢えて思い出さないように聴くこと(これが大切!)で、自然なピアノ曲として聴こえてきます。こんなリストの曲がありそうです。このCDではリストのソナタやファウスト・ワルツなども驚異的なテクニックで魅せます。前述のラルゴはイマイチでしたが、前奏曲とフーガ イ短調の演奏は一聴の価値アリです。今後他のバッハの超絶技巧編曲もぜひ手がけて欲しいものです。

    Liszt Recital収録曲目
    バッハ=リスト/前奏曲とフーガ イ短調
    バッハ=ブゾーニ/シャコンヌ
    ・グノー/リスト/歌劇『ファウスト』のワルツ
    ・リスト/ピアノ・ソナタ ロ短調

    Bach/Brahms/Chopin: Piano Recital収録曲目
    ・リスト/スペイン狂詩曲
    ・クライスラー=ラフマニノフ/愛の悲しみ
    ・ショパン/ロンド 作品16
    ・ブラームス/パガニーニ変奏曲
    バッハ=フェインベルグ/ラルゴ
    ・リスト/パガニーニ練習曲 第6番
    ・ショパン/アンダンテスピアナートと華麗なるポロネーズ

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    2008年03月03日

    Exquisite Rarities Of Piano Music

    久しぶりの更新になってしまいました。さてこのタイトル「Exquisite Rarities Of Piano Music」というCDを手に入れ、その内容が大変興味深いものでしたので紹介します。タイトルの通り、極めて珍しいピアノ音楽ということですが、その中にバッハのピアノ編曲も収録されていました。カバレフスキー編曲のトリオソナタ 第2番 ハ短調です。CDのジャケットはこちら。
    Exquisite Rarities Of Piano Music
    Amazon等メジャーな通販サイトでは見かけませんが、Briosoというサイトで購入できます。注文するとCEOの丁寧なメッセージ付でCDが送られてきました。

    さて、カバレフスキー編曲のトリオソナタ 第2番 ハ短調、これが非常に優れたピアノ編曲です。煌びやかな高音部、色彩感豊かな中音部、効果的な低音。ブゾーニのバッハの編曲、特にオルガン曲の編曲は、オルガンの重厚な響きとその音楽の本質をピアノで効果的に再現することに成功していると思いますが、一方でカバレフスキーのこの編曲はオルガンの響きを再現するのではなく、原曲の音楽素材をもとに効果的なピアノ曲として生まれ変わっていると思います。このような感想を持つ素晴らしい編曲は、他にはフェインベルグ編曲のラルゴが挙げられます。ぜひこういう曲は広く世に出回って欲しいものです。

    <収録曲>
    BR143 - Exquisite Rarities Of Piano Music
    Rachmaninoff, Bach, Schubert, Mozart, and more
    Tobias Bigger, piano

    1. Rachmaninoff/ Polka de WR
    2. Scarlatti=Granados/ Sonata in a, L 469
    3. Brahms=Bigger/ Waltz op. 65a No. 3
    4. Bach=Warren/ Aria "If Thou Art Near", BMV 508
    5. Severac/ "Les Muletiers" from Suite "Cerdana"
    6. Tchaikovsky=Wild/ "At the Ball" Op. 38, No. 3
    7. Bach=Kabalevsky/ Sonata for Organ, BWV 526, Allegro
    8. Bach=Kabalevsky/ Sonata for Organ, BWV 526, Largo
    9. Bach=Kabalevsky/ Sonata for Organ, BWV 526, Allegro vivace
    10. Faure=Cartot/ Berceuse from Suite "Dolly" op. 56
    11. Medtner/ Dithyrambe op. 10, No. 1
    12. Schoeck=Bigger/ Lullaby
    13. Purcell=Stevenson/ Hornpipe
    14. Schubert=Godowsky/ "Good Night" from "Winterreise", D 911
    15. Mozart=Stradal/ Minuet from Symphony No. 40
    16. Foster=Warren/ "Beautiful Dreamer"
    17. Brahms=Cziffra/ Hungarian Dance No. 9
    18. Handel=Wild/ Aria and Variations ("Harmonious Blacks,ith")

    2008年04月10日

    ストラーダルが残した手稿譜

    ストラーダルは、以前取り上げた通り膨大な数のピアノ編曲を残しています。彼の作品リストは文献として残っていますが、その中で出版されずに手稿譜として残されている作品も多くあり、バッハの編曲は20種類を超えます。これらが手稿譜のまま忘れ去られてしまう(現に作成から100年近く経っています)のは大変残念なことです。そこで私は、これらを浄書して後世に残していきたい(大袈裟ですが)と考え、現時点で既に4曲浄書しました。追って紹介していきたいと思います。

    さてストラーダルの残したピアノ編曲は、とにかく2本の手で可能な限りたくさんの音を拾おうとしており、重厚な音楽となっています。2オクターブ以上にわたる常識はずれな和音や跳躍が平気で出てくるため、楽譜通りにインテンポで演奏するのは不可能なのではないかと思わされます。他の音楽家の編曲作品と比べても、ストラーダルの編曲結果は決して傑作と呼べるものではないと思いますが、ストラーダルの魅力は、他の音楽家がピアノソロに編曲しようとは思いもしない曲の編曲をたくさん残してくれたことで、強引ですが少なくとも2段譜に収まったピアノ譜として音楽を眺めることができるのです。また、原曲の声部ごとの動きがわかるような記譜になっており、原曲をイメージしやすい編曲とも言えます。

    そんなストラーダル編の手稿譜を浄書することは、ストラーダルの編曲結果をなぞるというよりも、バッハの原曲、その作曲技法を堪能できる(勉強できる)と思います。おかげで私にとって、ストラーダル編の浄書はピアノを弾くのと同じくらい楽しい作業になりました。副次的な効果として、楽譜製作ソフト・Finaleの使い方もだいぶわかってきて、入力スキル・スピードも向上しました。

    バッハが先輩音楽家の楽譜を写譜することで作曲を学んでいったように、この浄書が私の編曲スキル向上に役立つともっといいなと思いつつ、気長に浄書は続けていこうと思います。


      【ストラーダルが手稿譜として残したバッハ編曲作品リスト】
    • カンタータ 第12番 「泣き、嘆き、憂い、おののき」 BWV 12

    • カンタータ 第78番 「イエスよ、汝はわが魂を」 BWV 78

    • マタイ受難曲 BWV 244 より 合唱「われらは涙してひざまずき」

    • ヨハネ受難曲 BWV 245 より 合唱「安らかにお眠りください、聖なる亡骸よ」

    • 7つのオルガン曲
       1. カンツォーナ ニ短調 BWV 588
       2. 前奏曲 イ短調 BWV 569
       3. フーガ ト短調「小フーガ」 BWV 578
       4. フーガ ロ短調「コレッリの主題による」 BWV 579
       5. フーガ ハ短調 BWV 575
       6. トリオ ニ短調 BWV 583
       7. 幻想曲 ハ短調 BWV 562

    • パストラーレ ヘ長調 BWV 590

    • コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766

    • コラールパルティータ 「おお神よ、汝義なる神よ」 BWV 767

    • コラールパルティータ 「喜び迎えん、慈しみ深きイエスよ」 BWV 768

    • トッカータ 嬰ヘ短調 BWV 910

    • トッカータ ハ短調 BWV 911

    • トッカータ ホ短調 BWV 914

    • 前奏曲 変ホ長調(第1版) ~ 無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV 1010 より

    • 前奏曲 変ホ長調(第2版) ~ 無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV 1010 より

    • 管弦楽組曲 第1番 ハ長調 BWV 1066

    • 管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV 1067

    • 管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV 1068

    • モテット「われは憂い多く」による序奏とフーガ(リストによるオルガン編曲による)
         (カンタータ 第21番より)


    2008年04月12日

    カンツォーナ ニ短調 BWV 588

    カンツォーナ ニ短調 BWV 588
    Canzona d-moll, BWV 588

    ストラーダルが手稿譜として残した編曲の中に、この曲が含まれていました。
    原曲はバッハの初期のオルガン曲(とされている)で、厳かな雰囲気を持つ対位法的な楽曲です。実は今まで、初期の作品だと勝手に侮っていたのかもしれませんが、この原曲はチェックしておらず知りませんでした。こんな良い曲があったとは。今回ストラーダル編曲の手稿譜を浄書することで、強くこの曲の魅力に惹かれました。まだまだこういう発見がきっとたくさんあると思うだけで、ますますバッハの音楽の研究熱があがるというものです。

    曲は大きく2つの部分からなり、どちらも4声のフーガになっています。以下の譜例はそれぞれのテーマですが、テーマに関連があるのは明らかです。第1部は緩やかに展開されるのに対して、第2部は動きが感じられます。

    第1部
    Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 1st part

    第2部
    Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 2nd part

    ニ短調という調性もあり、曲の雰囲気は最晩年の作品、「フーガの技法」に通ずるものがあると思います。そして対旋律としての半音階との調和が見事です。

    さて、これをピアノで弾くとどうなるか。旋律・対旋律ともにピアノの音色で聴くとよりくっきりと聞こえ曲の輪郭が見えてくるので、これがまたとても魅力的です。ストラーダル編の手稿譜を浄書した副産物としてMIDIファイルができましたので、譜例と共に掲載します。機械の演奏ですが音として聞くことでイメージが伝わるかと思います。

    第1部midi
    Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 1st part

    第2部midi
    Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 2nd part

    2008年04月15日

    アムランの弾く「バッハによる幻想曲」

    今回はブゾーニの名作「バッハの主題による幻想曲」と、それが収録されたCDの紹介です。原題 "Fantasia nach J. S. Bach" と題されたこの曲は、1909年、彼の父の死に際して3日間で書かれた曲で、静かで瞑想的な土台の上に、力強くバッハのコラールが歌われます。この曲は、編曲というよりも「バッハの音楽をモチーフに作曲されたピアノ曲」という分類になると思います。引用しているのは以下のバッハのオルガンコラールです。

    ・コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766
    ・コラール「神の子は来たりたまえり」 BWV 703

    ブゾーニのゆるやかに流れるような瞑想的なファンタジアで始まり、へ短調で物憂げなコラールのテーマによるコラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766 が現れます。いくつかの変奏が盛り込まれ、途中でヘ長調のコラール「神の子は来たりたまえり」BWV 703 が導入されると曲は輝かしく喜びに満ちた音楽に変わっていきますが、その後もヘ短調のコラール変奏は何度も再現され、終結部に向かって静かに安らかな眠りへと誘う、そんな音楽です。

    さてこの曲の素晴らしさを最もよく伝えてくれている演奏として、アムランのCD「The Composer Pianists」を挙げたいと思います。ブゾーニの比較的有名な曲だけに、録音も多く残されていますが、私はこのアムランの演奏を凌ぐものをは未だ無いと思ってます(下で挙げるペトリを除いて)。

    なお、この曲の初演を果たしたブゾーニの高弟、ペトリの録音「Busoni: Complete Recordings 」も大変素晴らしいです。クリアなサウンドで聴けたら文句なしなのですが。

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    Hamelinの演奏

    Petriの演奏


    2008年04月18日

    新発見の曲を、早速ピアノで

    バッハの初期オルガン作品が発見されたとのことで、早速この曲をピアノで弾いてみることにしました。昔、ブゾーニは「オルガンの3段譜を見ても、頭の中で編曲し即座にピアノで弾けるようになれ」と言っていたようですが・・・とりあえずピアノ2段譜に編曲(音に手は加えてませんが)してみました。オリジナルなオルガン譜は誰かが作っていると思いますが、さすがにまだピアノ編曲は誰もしてないのでは?!

    コラール・ファンタジー「主なる神、我らの側にいまさずして」 BWV 1128
    Bach=Tanaka/ Piano Arrangement of Chorale Fantasia BWV 1128

    まだ10小節くらいまでしかできてませんが、何とかピアノでも弾けそうです。MIDIファイルmidiにもしてみました。まだこの曲の全体は手に入ってませんが、ぜひピアノで弾いてみたいです(オルガンないので・・・)。

    2008年04月27日

    『音楽の玉手箱~露西亜秘曲集~』より

    最近入手した有森博 氏のCD、「音楽の玉手箱~露西亜秘曲集~ 」がとても良く、また面白かったので紹介したいと思います。CDの内容はロシアの知られざる佳曲を選りすぐって収録しているもので、聴いたことのある曲から初めて聴く曲まで、民族色の強い曲などもあり大変楽しめます。曲目はAmazonのリンクをご参照ください。

    これらの収録曲の中にバッハのピアノ編曲、G線上のアリアが収録されており、それがまた秀逸。ニコライ・ヴィゴードスキー(Nikolai Wigodsky, 1900-1939)による編曲で、楽譜は見たことがあったものの今までほとんど情報がありませんでした。これがプロの演奏で聴けるとは思ってもいませんでした。楽譜は3段(高音・中音・低音部)になっていますが、ちょうど二本の手で弾けるように編曲されており、かつ声部が見やすくなっています。以下の楽譜はその冒頭部分です。
    Bach=Wigodsky/ Air from Orchestral Suite No.3 BWV 1068

    興味深いのは、前半・後半ともに繰り返し部分でメロディーラインが中音部に現れるのです。
    A - A' - B - B' と表記すると、A'とB'のメロディーを中音部で演奏しており、この部分の響きがとても新鮮で、ありがちな編曲と一線を画しています。(さらなるアレンジとして、A - A' - B' - B と演奏するのも良いかなと思いました)
    Bach=Wigodsky/ Air from Orchestral Suite No.3 BWV 1068

    ライナーノーツにもチェロによる響きをイメージさせると書いてありましたが、確かにその通りで、例えばカザルスやヨーヨーマがチェロで弾いた演奏がありますが、それと似た感じになります。そして何より、この有森氏の演奏が素晴らしいです。譜例を出して言葉で説明するのは易しいですが、これを確かに演奏するためには繊細なコントロールが必要でしょう。静かに聴き入ってしまう名演です。

    何にせよ、このCDには大変楽しませてもらいました。


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    2008年05月02日

    コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766

    コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766
    Chorale Partita 'Christ, der du bist der helle Tag' BWV 766

    先日の記事で取り上げた「バッハの主題による幻想曲」の中心となるバッハの原曲、コラールパルティータ「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766が、ストラーダルが手稿譜として残した編曲の中に含まれています。この曲も私が浄書したので、その一部をMIDIファイル付きで紹介します。

    曲の構成としては、まずコラールの主題を提示し、その後6つの変奏が繰り広げられ(全部で7つの変奏)、最後に主題が回帰します。原曲のオルガンでも第6変奏までは手鍵盤のみで演奏でき、最後の第7変奏でペダルに主題が現れ5声で力強く締めくくられます。以下の楽譜は、ストラーダル編のコラール主題部です。

    コラール主題midi
    Theme - Chorale Partita 'Christ, der du bist der helle Tag' BWV 766

    ストラーダルの編曲では、第1~第6変奏の途中までは比較的おとなしく、強弱やペダル記号の追記以外はほとんど原曲と同じです。あたかもクラヴィーア曲のような趣ですが、第6変奏の途中から次第に和音が拡大され、第7変奏で盛り上がりの頂点を築きます。以下の楽譜が第7変奏、一見複雑そうに見えますが、演奏はさほど難しくありません。特にこの第7変奏は強弱の対比も見事で、ピアノで演奏することにより、より華やかさが前面に出ると思います。なおこの第7変奏も、ブゾーニの「バッハの主題による幻想曲」で使われています。

    第7変奏midi
    7th Vars. - Chorale Partita 'Christ, der du bist der helle Tag' BWV 766

    バッハのオリジナル曲で、ゴルトベルク変奏曲が圧倒的な存在感を示しているとはいえ、モーツアルト等の後世の音楽家と比べてピアノで演奏できる変奏曲の数が少ないのは事実です。こうしてピアノでバッハの変奏技法を楽しむというのも一興だと思います。

    2008年06月04日

    マタイ受難曲 BWV 244 より「われらは涙してひざまずき」

    マタイ受難曲 BWV 244 より 「われらは涙してひざまずき」
    'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244

    ストラーダルが手稿譜として残した編曲の数々を見たときに、いち早く「弾いてみたい!」と思った曲で、真っ先に浄書し、先日の演奏会で初めて人前で弾かせてもらいました。1921年に編曲されたまま忘れ去られ、去年まではチェコの博物館に自筆譜として眠っていたものなので、おそらく日本初演だったのではないでしょうか。

    原曲はあのマタイ受難曲の終曲であり、時間にして約3時間にわたる音楽の締めくくりとして感動を誘う大合唱です。マタイ受難曲に関する詳細な解説は世にたくさん出回っているため、ここでは割愛します。

    さてこの曲をピアノで弾くには相当無理があると思われますが、ストラーダルは繰り返しごとに和音を分厚くしてゆき、壮大な楽想を果敢にピアノで表現しようとしています。まず冒頭部の楽譜を見てみましょう。以下のように比較的まともな音の使い方で曲が始まります。

    Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244

    これが、展開を経て再現される箇所では、以下のようになってしまいます(4小節目)。左手にいたっては3オクターブにわたるアルペッジョ和音。唖然とさせられます。

    Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244

    ストラーダルには失礼かも知れませんが、この編曲に関しては必ずしも記譜された全ての音を弾く必要は無いと私は考えます。現実的に演奏可能な程度に音を減らしてもある程度は同じ演奏効果が得られると思い、独自に手を加えました。

    一方で、ストラーダルの編曲では終始、中・低音域の厚い和音が集中していることで、若干冗長というか、もっさりと重たすぎると思います。音を減らすところで手を加えたついでに、一部のメロディー部は1オクターブ高い音域で演奏するように手を加えました。その一例を以下に挙げます。

    <ストラーダルによる結尾部>
    Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244



    <私の結尾部の改善案>
    Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244

    弱音で奏でる1~2小節目の和音は音を少なくし、力強く歌う箇所(3~4小節目)は弾き易く音を減らした低音のアルペッジョと高音域に移したメロディーで広い音域を使うように手を加えました。

    これらの改編は、当初は練習しながら思いついて書き込んでいたものでしたが、自分が演奏会に出すために何度も練るうちに改訂版としてまとめて楽譜を作り直しました。今年もまだ演奏会に出演させていただく機会が何回かあるので、ぜひこの曲も熟成させ何度か弾きたいと思っています。(よい録音が残せれば載せたいと思います)

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