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2007年08月05日

トリオソナタ 第1番 変ホ長調 BWV 525

ポルトラツキー(Poltoratsky)なる人によるトリオソナタ 第1番 変ホ長調 BWV 525の編曲を入手しました。原曲は二つの旋律と通奏低音による室内楽的な音楽を、オルガンの手鍵盤・ペダルで演奏する曲で、とりわけ爽やかな曲です。
ポルトラツキーとは全く聞いたことが無かった名前ですが、ロシアの音楽家のようです。非常に良くできた編曲だと思います。

Bach=Poltoratsky/ Trio Sonata No.1 BWV 525
(Bach=Poltoratsky/ Trio Sonata No.1 BWV 525)

同曲の編曲としては、他にストラーダルによる編曲があります。この楽譜を見比べるとわかるかと思いますが、ストラーダル編の方が全体的にすっきりとしているのに対し、ポルトラツキーの編曲はやや厚めの響きになっています。左右の手への振り分け方は、ポルトラツキー編曲の方が弾きやすいと感じました。

Bach=Stradal/ Trio Sonata No.1 BWV 525
(Bach=Stradal/ Trio Sonata No.1 BWV 525)

残念ながら、これらの編曲の録音は存在しないと思われます。

2007年08月06日

カンタータ 第29番 より 第1曲「シンフォニア」

今日紹介するのは、カンタータ第29番の序曲の編曲です。原曲はオルガンにトランペットやティンパニーが加わり、祝祭的な雰囲気いっぱいの曲ですが、さらにさかのぼると無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ ホ長調と同じ音楽になります。今回は出版譜として持っている以下4つの編曲を比較してみました。
まず最近手に入れたものとして、カートゥン(Leon Kartun)の編曲です。カートゥンについては何の情報も持っていません(カタカナ表記が妥当かどうかもわかりません)。
Bach=Kartun/ Ouverture from Cantata No.29 BWV 29
(Bach=Kartun/ Ouverture from Cantata No.29 BWV 29)

次に紹介するのは、サンサーンスによる編曲。Kartun編曲よりもオクターブを多用しているため、より派手になっています。楽譜が入手できる店は限られますが、CDはNAXOSから出ているため比較的容易に入手できます。(アマゾンではこちら→Piano Transcription
Bach=Saint-Saens/ Ouverture from Cantata No.29 BWV 29
(Bach=Saint-Saens/ Ouverture from Cantata No.29 BWV 29)

サンサーンス編よりさらに音が多いのが、ケンプ編です。こちらは日本では全音から出版されていますし、比較的手に入れやすい部類の楽譜です。
(たとえばAmazonではこちら→楽譜:バッハ=ケンプ ピアノのための10の編曲、CD:Bach Arrangements

Bach=Kempff/ Prelude(Sinfonia) from Cantata No.29 BWV 29
(Bach=Kempff/ Prelude(Sinfonia) from Cantata No.29 BWV 29)

4つ目に紹介するのは、リストやチャイコフスキーの弟子であり、ラフマニノフの師として有名なシロティの編曲。非常にわかりやすくシンプルな編曲です。
Bach=Siloti/ Prelude(Sinfonia) from Cantata No.29 BWV 29
(Bach=Siloti/ Prelude(Sinfonia) from Cantata No.29 BWV 29)

こうして4つ並べてみると、それぞれずいぶんとちがった手法で編曲しているのがよくわかります。優劣をつけるのではなく、楽しみ方が違うと私は思っています。

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2007年08月07日

パルティータ 第6番 ホ短調(ブゾーニ版)

Partita No.6 e-moll, BWV 830 (Busoni-Ausgabe)

バッハの楽譜で、解釈版の中でも相当異色な存在であるブゾーニ版についてお話しましょう。チェンバロにないピアノ固有の機能を使って、音楽的になるように演奏するための指示が詳細に書き込まれています。ペダルや指使い、速度表示、強弱、フレージング・スラー以外にも、低音域のオクターブ化、和音や対旋律の追加までしている箇所もあり、編曲と捉える方もいます(このページでも編曲として扱います)。これは原典主義的には大いに問題がありますが、一方で後期ロマン派巨匠のバッハ解釈を知る上では重要な資料でもあります。なおパルティータ集のブゾーニ版は、ブゾーニの高弟であるエゴン・ペトリによって編纂されました。ですので、本ページの曲目データベース上は、ブゾーニ版ですが「ブゾーニ編」ではなく、「ペトリ編」として扱います。

以下の楽譜をご覧ください。どちらもパルティータ第6番の冒頭楽章・トッカータですが、上がオリジナルで、下がブゾーニ版(ペトリ編)です。ブゾーニ版(ペトリ編)はMaestosoが指定されています。低音がオクターブ化され重くなり、応答の和音にも音が追加され響きが艶やかになっています。オリジナルへの冒涜、やり過ぎ、等といった批判が起こるかも知れません。
しかしこれはピアノで音楽的になるように演奏するための一つの解釈なのです。常に重い和音というわけではなく、軽いテクスチャを維持した部分も多く残っています。
Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830
(Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830)
Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830
(Bach=Petri/ Toccata from Partita No.6 BWV 830 (Busoni-Ausgabe))


下の楽譜はフーガの中間部です。はじめの2小節は、バスの旋律に小さい音符が付け加えられ、オクターブによる演奏が指示されています。これは、低音の響きを厚くするだけでなく、この接近した2声部に分かれた「ため息」のフレーズを明瞭に弾き分けられるという効果もあります。その後、3小節目からはオリジナルと同じテクスチャに戻ります。
Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830
(Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830)
Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830
(Bach=Petri/ Toccata from Partita No.6 BWV 830 (Busoni-Ausgabe))

 ここに紹介したのはほんの一例に過ぎませんが、全曲を通して、決して派手にすることが目的ではなく、ピアノを使った場合の工夫点が楽譜上に指示されているわけです。

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<以上の記事は、パルティータ愛好会主催の演奏会で、私が出演者曲目紹介として書いたものを微修正し転用したものです。>

2007年08月09日

Alexander Siloti (1863-1945)

シロティ(Alexander Siloti)に関する書籍、「 Lost in the Stars: The Forgotten Musical Career of Alexander Siloti 」が最近届きましたので紹介します。(日本では一般にカタカナで「シロティ」と表記されますが、発音は「ジロティ」の方が近いようです。ですが、このサイトでは「シロティ」と統一しています)
シロティはリスト、アントン・ルビンシュタイン、チャイコフスキーの弟子であり、ラフマニノフの師でもあります。バッハのピアノ編曲を多く残しており、Carl Fischer社から出版されているThe Alexander Siloti Collectionにも大多数の作品が収録されています。
この本には、シロティが残したバッハの編曲作品のうち14曲を収録したCDが付録で付いています。このCDでしか聞けない編曲(2007.8時点)もいくつかあり、かなりマニアックな音源の一つです。

シロティ編曲の録音で、より手に入れやすいCDとして「Bach Piano Transcriptions - 5 」があります。このCDには、シロティのほか、ゲディケカバレフスキーカトワールなどロシアの音楽家による編曲が収録されています。


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2007年08月13日

無伴奏チェロ組曲 第1番 BWV 1007

無伴奏チェロ組曲 第1番。伴奏を伴わない、チェロのソロで奏でられるこの有名な曲、特に感動的な大きなうねりが表出されるプレリュードは広く世間から評価されているすばらしい曲です。チェロだからこそ表現できる渋い低音、弦楽器特有の倍音、ピアノ弾きには到底表現できない憧れの音楽です。ではこの曲をピアノで弾いたらどうなるか??チェロ譜にある音符の通り弾いてみることは可能ですが、無伴奏チェロでの演奏とは全く比較になりません。

さて、先日紹介したシロティの編曲集の中に、「無伴奏チェロ組曲による子供のための練習曲」という4つの楽章があります。その中に無伴奏チェロ組曲 第1番からプレリュードとクーラントが収録されています。これらの編曲はまさにチェロ譜にある音符を左右の手で振り分けて弾くだけのものです。タイトルに「子供のための練習曲」とある通り、あくまでも題材としてチェロ組曲の音楽を使った練習曲であり、ピアノで再現する芸術作品と呼ぶにはやや物足りないものです。
Bach=Siloti/ Prelude from Four Etudes for the Young
(Bach=Siloti/ Prelude from Four Etudes for the Young)

もう一つ紹介するのは、ヨアヒム・ラフ(Joachim Raff, 1822-1882)が同組曲の全楽章をピアノソロに編曲したものです。
この楽譜を見てわかるとおり、左手でチェロ原曲のうねりを演奏し、右手に新たな旋律を加えています。本来のすばらしい分散和音が、新たに付け加えられた旋律の伴奏になってしまったのです。これは、平均律 第1巻 第1番のプレリュードを元に作られたグノーの「アヴェ・マリア」と同じアイデアです。
Bach=Raff/ Prelude from Suite for Unaccompanied Cello No.1 in G major BWV 1007
(Bach=Raff/ Prelude from Suite for Unaccompanied Cello No.1 in G major BWV 1007)

この編曲をどのように感じますか?この編曲を聴く(弾く)には、原曲の無伴奏チェロによる演奏を忘れ去る必要があると思います。あまりにも原曲の偉大さがゆえに、いかなる編曲も受け入れられないのではないでしょうか。
しかし実際には、プレリュード、アルマンド、クーラント、サラバンド、メヌエット、ジーグまで通して非常によく編曲され、あたかもバッハのオリジナルのクラヴィーア組曲のように均整の取れたピアノ曲集になっていると思います。できる限り先入観を捨てる努力をしてこの組曲全体の編曲を聴いてみてはいかがでしょう。「無伴奏チェロ組曲第1番のピアノ編」ではなく、「組曲 ト長調」として。

CDは、Amazonでは見つかりませんでしたが、レーベル等の情報はこちらの音盤紹介ページをご参照ください。

2007年08月14日

前奏曲 ロ短調

引き続きシロティの話題です。シロティ編曲の前奏曲 ロ短調、原曲はバッハの息子のために書いたと言われる「W.フリードマンのための音楽帳」に含まれる前奏曲 ホ短調 BWV855aです。まずは原曲の楽譜を見てみましょう。
Bach/ Prelude No.5 W. F. Bach Book, BWV 855a
(Bach/ Prelude No.5 W. F. Bach Book, BWV 855a)

平均律 第1巻 第10番(BWV 855)の前奏曲によく似ていることはすぐおわかりでしょうか。平均律に収録された前奏曲では右手で演奏する旋律はさらに装飾されていますが、BWV 855aでは和音進行のみが記譜されています。

さて、次にシロティ編曲の前奏曲 ロ短調を見てみましょう。より音楽的な深みをもたせるために原曲のホ短調からロ短調に書き換えられています。
Bach=Siloti/ Prelude h-moll
(Bach=Siloti/ Prelude h-moll)

また非常にゆっくりとしたテンポ指定でささやきかけるような弱音で始まり、高音部に移された分散和音の中に哀愁漂う低音のメロディーが浮き立ち、なんともロマンチックな曲になっています。

この編曲はシロティの娘、キリエナ・シロティに献呈されています。バッハの編曲モノとしてはめずらしくいろいろなCDに収録されていますが、手に入れやすいものとしては以下のリンクを参考にしてください。たとえば最近ようやくCD化された、ワイセンベルグの「バッハ:主よ、人の望みの喜びよ(ピアノ曲集)」にも収録されています。


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2007年08月21日

オルガン前奏曲とフーガ ト短調 BWV 535

今回取り上げるのはオルガン前奏曲とフーガ ト短調 BWV 535。バッハ初期のオルガン曲ですが、当時としては冒険的な和声を使用し即興的に音楽を展開していく意欲作です。即興的でありながらも、前奏曲の中にフーガのテーマが仄めかされ、フーガの最後には前奏曲の曲想を回帰しているという全体の統一感があります。

さて、この曲のピアノ編曲としては、またまた登場するシロティによる編曲があります。ピアノの広い音域を使った派手で演奏効果がある割には比較的容易に弾ける、良い編曲だと思います。それがためか、結構多くのピアニストによって録音が残されています。その中でも、ネルソン・フレイレのライブ録音「Nelson Freire en Concert」にアンコールピースとして収録されているものは、熱気が伝わってくるすばらしい録音です。その他にも、「Bach for Christmas」(→本ページのCD紹介)や、「 Lost in the Stars: The Forgotten Musical Career of Alexander Siloti 」にも収録されています。楽譜は、Carl Fischer社から出版されているThe Alexander Siloti Collectionに含まれています。以下は、シロティ編の前奏曲の冒頭部分です。
Bach=Siloti/ Organ Prelude in G minor BWV 535
(Bach=Siloti/ Organ Prelude in G minor BWV 535)

シロティ編の最大の難点は、前奏曲のみ抜粋ということです。最初に述べたとおり、前奏曲にフーガのテーマが出現していることなどからも、前奏曲とフーガを通して演奏したいところです。

一方で、タチアナ・ニコラーエワのCD「バッハ:小プレリュードと小フーガ」には、ニコラーエワ自身の編曲でこの前奏曲とフーガが通して演奏されています。シロティ編よりも音の厚さはないものの、端正な美しさのある演奏です。

さて、先のシロティ編は、楽譜に書いてある情報によるとテオドール・サーントによる編曲の改編とあります。長い間このサーント編を探していたのですが、最近ようやく海外の音楽愛好家から複写を手に入れることができました。 なんと、その元となったサーント編は、フーガまで通して編曲されていたのです。以下がフーガの冒頭部分です。

Bach=Szanto/ Fugue from Organ Prelude and Fugue in G minor BWV 535
(Bach=Szanto/ Fugue from Organ Prelude and Fugue in G minor BWV 535)

これが、フーガの後半部ではこのような分厚く華やかな展開を見せます(2小節目のバスにテーマが現れています)。まるでブゾーニによる豪華爛漫なバッハの編曲を想起させます。そう、サーントはブゾーニの弟子なのです。

Bach=Szanto/ Fugue from Organ Prelude and Fugue in G minor BWV 535
(Bach=Szanto/ Fugue from Organ Prelude and Fugue in G minor BWV 535)

残念ながらこのサーント編の録音は無いと思われます。腕の立つピアニストに録音してもらいたいところです。ただ、シロティの前奏曲の改編は、バッハ=ブゾーニのシャコンヌのシロティ改編版のように元編曲より音を減らして再構築しているものですが、音を減らして単純化しただけでなく、音楽的にはより洗練されているように見受けられます。サーント編はとにかくたくさんの音が詰め込まれていますが、シロティ編の楽譜の方が保続音の響き方等、よりシンプルに効果を出せると思います。こう見ると、やはりシロティの改編がフーガを伴っていないのが残念でなりません。

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2007年08月26日

Transcendental Bach (1)

今回もCDの紹介です。私がバッハのピアノ編曲に興味を持つようになるきっかけのCDで、特別な存在です。本体のホームページでも既に紹介していますが、この素晴らしい録音についてはあらためてここで取り上げたいと思います(1曲ごとに紹介するので、何回かに分けて書いていきます)。「Transcendental Bach」、日本語で言うならば「超絶技巧バッハ」で、CDのタイトル通り、超絶技巧をもってして初めて達成し得るバッハのピアノ音楽がここにあります。演奏はThomas Labe。

収録曲はすべてバッハの無伴奏弦楽器曲のピアノ編曲ですが、聴く前にはまず原曲の無伴奏曲のイメージは頭から捨て去る必要があります。原曲の(精神的に素晴らしい曲だという)先入観があると「こんな曲のはずがない」 というマイナスイメージを抱いてしまう可能性があるためです。

CDを頭から聴いていきましょう。まずはゴドフスキー編曲の無伴奏チェロ組曲 第5番より 前奏曲とフーガです。楽譜を見ると、原曲の持続音の部分はほとんど対旋律で埋め尽くされ、執拗なまでのオクターブの低音の連続がありますが、演奏は決して重くなりすぎず、 原曲の持つ魅力とは全く別の新たな命が吹き込まれています。特にフーガでは、新たに追加された対旋律によって響きが艶やかに彩られ、大変魅力的な曲となっています。
Bach=Godowsky/Prelude and Fugue from Suite No.5 for violincello solo BWV 1011
(Bach=Godowsky/Prelude and Fugue from Suite No.5 for violincello solo BWV 1011)
本来の組曲ではこの前奏曲のあとに舞曲が続きますが、前奏曲があまりに荘厳に編曲されているがゆえに、続く舞曲が(原曲は良い曲であっても)おとなしく尻つぼみと感じてしまいます。このCDでは前奏曲(とフーガ)だけが収録されていますが、そのバランスを考えてのことかもしれません。(単純に演奏時間の問題かもしれませんが)

次にラフマニノフ編曲の無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第3番より 前奏曲、ガヴォットとジーグ。荘重なゴドフスキー編の前曲とうって変わって、快速で軽妙な音楽が繰り広げられます。曲想そのものが爽やかですが、一般的なピアニストが採用するテンポよりもずいぶんと速い速度で一気に演奏されます。この曲でもまたゴドフスキー編と同じように、音の流れの中に見事に追加された対旋律は、 すべて冒頭の音型から紡ぎ出されています。
Bach=Rachmaninoff/Prelude from Partita No.3 for violin solo BWV 1006
(Bach=Rachmaninoff/Prelude from Partita No.3 for violin solo BWV 1006)


その後、ゴドフスキー編曲に戻ります。無伴奏チェロ組曲 第3番も、基本は休符を音で埋め尽くした感じの編曲になります。
シロティによる同曲の編曲(「無伴奏チェロ組曲による子供のための練習曲」に含まれています)と見比べてみましょう。どちらも前奏曲の冒頭部分です。
Bach=Siloti/Prelude from Four Etude after Cello Suites
(Bach=Siloti/Prelude from Four Etude after Cello Suites)
Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.3 for violincello solo BWV 1009
(Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.3 for violincello solo BWV 1009)
どうでしょうか?16分音符の本来の旋律をオクターブで厚く奏し、支えるバスと新たな旋律が合体され、全く新しい曲になっています。繰り返しますが、原曲を思い出さないで下さい。この曲を組曲を通して颯爽と演奏する様がこのCDに収録されているのです。

収録曲紹介の続きは、また後日書きます。
(to be continued...)



<収録曲>


2007年08月31日

Transcendental Bach (2)

前回に引き続きThomas LabeのCD「Transcendental Bach」の紹介です。

ゴドフスキー編曲の無伴奏チェロ組曲 第2番。この曲はアンダンテ・カンタービレ、ピアニッシモでゆったりと始まります。前奏曲の冒頭には、本来の原曲に導入の2小節が追加されています。
Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008
(Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008)

前奏曲、アルマンドとゆったりとした曲想が続いた後、嵐が吹き荒れるのがクーラントです。本来のクーラントの軽やかな舞曲とはかけ離れた、激しい音楽になっています。
Bach=Godowsky/Courante from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008
(Bach=Godowsky/Courante from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008)

無伴奏チェロ組曲の全楽章演奏に続くのは、今度は無伴奏ヴァイオリンソナタの方から一つの楽章の抜粋です。無伴奏ヴァイオリンソナタ 第1番より シチリアーノ。CDの中でも、重い音楽が続く中での小休止の趣があります。
Bach=Godowsky/Siciliana from Sonata No.1 for violin solo BWV 1001
(Bach=Godowsky/Siciliana from Sonata No.1 for violin solo BWV 1001)

このCDにもうひと山ありました。無伴奏ヴァイオリン曲のピアノ版として最も有名なブゾーニ編「シャコンヌ」。 恐ろしいスピードで走り抜けるこの演奏にまず驚かされます。しみじみと味わうシャコンヌを期待すると卒倒します。(同じ高速演奏でもワイセンベルグのCDで聴ける演奏の方が味わいがあります)

CDの最後は、無伴奏ヴァイオリンソナタ 第2番より アリアです。シャコンヌを弾き終え、拍手喝采の中で名残惜しくアンコールで演奏したかのような、心憎い配置です。

Bach=Godowsky/Aria from Sonata No.3 for violin solo BWV 1003
(Bach=Godowsky/Aria from Sonata No.3 for violin solo BWV 1003)


<収録曲>


2007年09月06日

F.Busoni nach Bach Piano Works

今回もCDの紹介です。パドヴァ(Andrea Padova)の演奏で、「F.Busoni nach Bach Piano Works」というCDです。このピアニストは、過去にもバッハのややマイナーな幻想曲や組曲を収録したCDをいくつか出していましたが、このCDはブゾーニの編曲モノが集められています。その選曲がまた、シャコンヌやオルガン前奏曲とフーガ、コラール等の一般的な編曲ではなく、やはりマイナーな編曲が集められている点が彼らしいです。

まず、「前奏曲、フーガとアレグロ」は本来リュートのための曲とみなされていますが、そのままピアノで演奏することも可能です。原曲は短い前奏曲、中規模のフーガ、短いアレグロがそれぞれ独立した3曲としてまとめられていますが、ブゾーニは曲集の注釈の中で、フーガとアレグロをまとめて演奏することを提案しています。
Bach=Busoni/ Prelude, Fugue and Allegro BWV 998
(Bach=Busoni/ Prelude, Fugue and Allegro BWV 998)
この譜例はフーガとアレグロの移行部分。フーガの後半部で切れ目無くアレグロに移行し、アレグロの最後にフーガが厚くなって回帰するという構成で、聞いていても自然な流れになっています。つまり、「前奏曲とアレグロ付フーガ」になっているわけです。この編曲での録音は、今まではブゾーニの弟子のエゴン・ペトリによる古い録音がひとつあっただけでしたが、これでクリアなサウンドで聞けるようになったわけです。

次の「幻想曲、アダージョとフーガ」も、面白い構成の編曲です。原曲である幻想曲とフーガ BWV 906は、フーガが未完成だったこともあり一般的には幻想曲のみがよく演奏されますが、ブゾーニは未完のフーガを補筆(というか自分流に展開)させて、間にアダージョ BWV 968を挿入しています。このアダージョは無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番の第1楽章を、バッハ自身(偽作説もありますが)がチェンバロ用に編曲したものです。

もうひとつ紹介しておきたいのが、「前奏曲とフーガ、フーガと装飾」(私の勝手な直訳。原題はPreludio, fuga e fuga figurata)です。原曲は平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第5番の前奏曲とフーガ ニ長調で、ほぼそのまま前奏曲とフーガが演奏された後に、前奏曲の走句とフーガが同時に演奏されます。以下の譜例を見てください。
Busoni/ Preludio, fuga e fuga figurata
(Busoni/ Preludio, fuga e fuga figurata)

なんとうまいことを思いついたことでしょう。ブゾーニ版の平均律曲集には様々な練習のための変奏が掲載されており、このアイデアも載っています。後に、ブゾーニの曲集「若者のために」(An die Jugend)の中に収められました。

他の収録曲については、またいつか紹介します。


  • Preludio, fuga e allegro

  • Fantasia, adagio e fuga

  • Fantasia, fuga, andante e scherzo

  • Fantasia nach Bach

  • Preludio, fuga e fuga figurata

  • Fantasia in modo antico Op.33b No.4

  • Drei Albumblatter

  • 2007年09月12日

    リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543

    リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543は、数あるバッハのピアノ編曲の中でも相当有名な部類に入ると思います。情熱的な前奏曲と、均整がとれながらも盛り上がって終わるフーガがセットになっており、さらに比較的コンパクトにまとまっているためでしょうか、大変人気があります。リストの編曲集「6つのオルガン前奏曲とフーガ」の中でも、この曲だけが唯一多くのピアニストに取り上げられます。以下の譜例は前奏曲の冒頭部分です。

    Bach=Liszt/ Prelude and Fugue in A minor BWV 543
    (Bach=Liszt/ Prelude and Fugue in A minor BWV 543)

    リストの編曲は、楽譜上非常にシンプルで、ペダル指示はもとより表現記号はほとんど無いため、演奏者の解釈がとてもよく出ると思います。多くのCDが出ていますが、その中でもはっきりと性格付けがついているものを3点選んで紹介しようと思います。

    まずは以前も取り上げたワイセンベルクのCD「バッハ:主よ、人の望みの喜びよ」を。こちらはピアノならではの硬質な音で、迷いが無く決然とした演奏が聴けます。煌びやかな高音部、荘厳な重低音、ここぞとばかりに表出され聴いていてドラマを感じられる演奏です。ロマン派スタイルの演奏と言えるでしょう。

    次に紹介するケヴィン・オールドハム(Kevin Oldham)のCD「The Art Of Piano Transcription」では、うって変わってノンレガートを基本としており、あたかもクラヴィーア曲かのような端正な演奏が聴けます。原曲を知らなければ、元がオルガン曲とはわからないことでしょう。ダンパーペダルの使用も最小限にとどめているようです。

    最後に、サイのCD「シャコンヌ!~サイ・プレイズ・バッハ」です。こちらは、ワイセンベルグの解釈よりもさらに表情豊かに演奏されます。全体的にゆったりしていますが、途中でもテンポが大きく揺れ、ロマン派的なバッハが聴けます。盛り上がるところではペダルを最大限に使い轟音を鳴らします。オールドハムの演奏と比較すると、とても同じ曲とは思えません。


    ダイナミック&スピーディーなワイセンベルグの演奏、シンプル&端正なオールドハムの演奏、ゆったりとロマンチックなファジル・サイの演奏、聴き比べてみるとこんなに違う弾き方があるのかと、新たな発見があるのではないでしょうか。どのCDも比較的容易に入手可能です。


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    2007年09月14日

    トリオソナタ 第4番 BWV 528 第2楽章 「アンダンテ」

    先日の記事「Transcriptions by Ira Levin」で紹介したCDに収録されている、トリオソナタ 第4番 BWV 528 第2楽章 「アンダンテ」。この曲、とても渋い音楽ですが聴くうちに好きになってきました。以下の譜面はアンダンテの冒頭、オリジナルのオルガン譜です。ロ短調で、物憂げな4度進行の主題。そして次第に装飾されていきます。
    Bach/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528

    この曲、ピアノで弾いてもよく響きます。ストラーダルによるピアノ編曲の譜面があるので、見てみましょう。以下の楽譜は、ストラーダル編の中間部。ゆったり歩む低音の上に、二つの装飾された下降メロディが美しく絡み合います。何と切ないメロディなことでしょう。

    Bach=Stradal/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528
    (Bach=Stradal/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528)

    ストラーダルの他の編曲は非常に音の数が多く、弾きこなすのは容易ではないですが、このアンダンテはとても弾きやすく、美しいのでお勧めです。

    この曲のピアノでの演奏は、以下のリンクのCDで聴けます。

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    2007年10月03日

    トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565 (1)

    トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565は、バッハの音楽のピアノ編曲を語る上で欠かすことはできません。あまりに有名すぎて、この曲を取り上げて記事を書くのは躊躇われます。明らかに1回の記事で想いのすべてを書ききることはできないと思いましたので、続編を思わせるタイトルにしました。

    原曲はオルガン曲。タララ~と始まる激しい下降音形と、続く大量の音と早急なパッセージとで情熱的なトッカータ。間にフーガが演奏され、最後にまた激しく盛り上がるという、後世の音楽家たちにとっても、ピアノの腕自慢として弾くのにもってこいの楽想。オリジナルの冒頭はこうなっています。

    Bach/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
    (Bach/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)


    さて、私が保有するこの曲のピアノ編曲版の楽譜は20種類を超えており、まだまだ他にもどんどん出てくる気がします。今日はその中から4つほど紹介します。まずは最も有名なブゾーニによる編曲。下の方でいろいろな編曲を紹介しますが、他の編曲はピアニスティックな派手な効果を狙おうと、色々な工夫(悪あがき?)をしているのに対して、ブゾーニ編がもっとも原曲の構成に忠実です。バッハの楽譜の通りのリズムで音を配置した上で、音を分厚くしたりペダル効果をめいいっぱい使った編曲です。

    Bach=Busoni/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
    (Bach=Busoni/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)

    一方で、この曲のピアノ編曲としては草分け的な存在なのが、タウジッヒによる編曲。出だしのトリル(A-B-A-B-A)が、現代の感覚では違和感がありますが、ブゾーニ編よりも派手で、時には原曲の音の形を変えて、ピアノならではの演奏効果を狙っています。

    Bach=Tausig/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
    (Bach=Tausig/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)

    なお、オーストラリアのピアニスト、グレインジャー(ブゾーニの弟子の一人)はブゾーニ編とタウジッヒ編の良いところを混ぜ合わせて演奏会で弾いていたようです。ハワードがその演奏をグレインジャー編として譜面に起こしており、数名のピアニストがCDに録音しています。私は、このグレインジャー編がピアノで弾いた際に最もバランスが良いと思っており、演奏会で何度か弾いたこともあります。

    続けて紹介する2曲は、比較的マイナーなものになりますが、冒頭の編曲手法の違いが如実に出ていることから紹介したいと思います。まずは、ピアニストとしては有名なコルトーによる編曲。コルトー編の楽譜は何度も店頭で見かけたことがあり、日本でも手に入りやすいものだと思います。冒頭のトリルからして、右手はA-A-Aのオクターブ移動、左手はA-G-A。下降音形も、3連符の連続。ペダル低音の上に乗る和音進行も分散和音化。冒頭部分だけを見ても、いろいろな工夫をしようとしています。

    Bach=Cortot/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
    (Bach=Cortot/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)

    次に、ストラーダルによる編曲。これまた重たい編曲で、すべてオクターブ和音で演奏されます。ペダル低音の上に乗る和音進行は、コルトー編よりもさらに派手に、広い音域のスケールで盛り上げています。続きもずっとこの調子で派手に展開されます。

    Bach=Stradal/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
    (Bach=Stradal/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)


    今日紹介したもののうち、ブゾーニ編、タウジッヒ編、グレインジャー編については以下に紹介するCDで聞くことができます。
    続きは、また別の日に書きます。


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    Busoni編

    Tausig編

    Grainger編


    2007年10月18日

    バッハの主題によるオクターブ練習曲

    バッハの音楽のピアノ編曲というと、たいていは「ピアノ演奏会」用の芸術作品を目指しているもの(成功しているかどうかは別として)が多いと思いますが、今日は思い切って「練習曲」としているもので、その中でも純粋なテクニック向上のためを目的とした曲を紹介します。

    フランスの名ピアニストであり名教師として有名であるフィリップ(Isidor Philipp)は、大量のバッハの編曲を残していますが、その中でも一風変わったものとして、「バッハの主題によるオクターブ練習曲 作品53」(Etudes En Octaves d'apres J. S. Bach Op.53)があります。これは、バッハの2声の楽曲を左右ともオクターブで弾かせるというものです。全15曲あり、構成(原曲との対応)は以下の通りです。

    Etudes Original Works No.
    第1番 2声のインヴェンション 第2番 ハ短調 BWV 773
    第2番 2声のインヴェンション 第5番 変ホ長調 BWV 776
    第3番 2声のインヴェンション 第8番 ヘ長調 BWV 779
    第4番 2声のインヴェンション 第9番 ヘ短調 BWV 780
    第5番 2声のインヴェンション 第11番 ト短調 BWV 782
    第6番 2声のインヴェンション 第13番 イ短調 BWV 784
    第7番 2声のインヴェンション 第15番 ロ短調 BWV 786
    第8番 フランス組曲 第2番 ハ短調 「メヌエット」 BWV 813/4
    第9番 フランス組曲 第2番 ハ短調 「ジーグ」 BWV 813/7
    第10番 フランス組曲 第3番 ロ短調 「前奏曲」 BWV 814/1
    第11番 フランス組曲 第3番 ロ短調 「ジーグ」 BWV 814/7
    第12番 イギリス組曲 第1番 イ長調 「ブーレ」 BWV 806/6
    第13番 イギリス組曲 第2番 イ短調 「ジーグ」 BWV 807/7
    第14番 パルティータ 第3番 イ短調 「幻想曲」 BWV 827/1
    第15番 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第10番 ホ短調 「フーガ」 BWV 855/2

    いくつか実際に楽譜を見てみましょう。まずは1曲目、原曲はインヴェンション第2番です。

    Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 1
    (Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 1)

    2声のインヴェンションをもとにした曲が続いた後、組曲で2声で書かれた曲が対象になっています。たとえば第12番では、イギリス組曲第1番のブーレを元にしています。

    Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 12
    (Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 12)

    第14番では、パルティータ第3番のファンタジアです。

    Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 14
    (Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 14)

    なおこの「Etudes En Octaves d'apres J. S. Bach Op.53」以外にも、同じアイデアの曲集があり、それは実際に私も持っています。Durandから出版されている、「Etudes d'Octaves」で、同じようにオクターブ練習曲ではありますが、クレメンティ、ショパンなどの曲を元にしています。その中に1曲バッハのインヴェンション 第14番 変ロ長調を元にした練習曲が収められており、この曲は「Etudes En Octaves d'apres J. S. Bach Op.53」には収録されていません。

    Philipp/ Etudes d'Octaves No. 4 (d'apres J. S. Bach)
    (Philipp/ Etudes d'Octaves No. 4 (d'apres J. S. Bach))

    バッハオリジナルのインヴェンションは、技巧を習得するためだけの練習曲ではなく、作曲技法の手引きでもあり豊かな内容をもつものでしたが、ここでは純粋な技巧練習曲になってしまっています。一方でオクターブ奏法はバッハのピアノ編曲にチャレンジする上で避けて通れないものです。ピアノ編曲を演奏できるようになるためのメソッドがあるとすれば、この曲集もカリキュラムに含まれるのではないかと勝手に想像をふくらませて今回の記事は終わりにします。

    2007年11月25日

    ウィーン旅行での収穫

    しばらく更新が滞ってしまいました。11/14~21まで、ザルツブルクとウィーンへ旅行に行ってきました。ウィーンでは、バッハというよりもモーツアルトやシュトラウスが中心でしたが、観光の合間に立ち寄った楽譜店にて、持っていなかったバッハ編曲モノの楽譜を3点ほど入手しました。小品を2曲、大曲を1曲。

    まずは、アレクサンドル・タロー編曲の「シチリアーノ(ヴィヴァルディの協奏曲のオルガン編曲より)」と「アンダンテ(原作者不明の協奏曲のクラヴィーア編曲より)」です。両曲ともにアレクサンドル・タローのCD「Concertos italiens 」に収録されているものです。

    Bach=Tharaud/ Sicilianne from Concerto nach Vivaldi d-moll  BWV 596
    (Bach=Tharaud/ Sicilianne from Concerto nach Vivaldi d-moll BWV 596)

    次に大曲の方は、ファジル・サイによる「パッサカリア ハ短調」の編曲。ただ分厚い和音だけでなく高音域をよく使ったピアニスティックな編曲になっています。

    Bach=Say/ Passacaglia c-moll  BWV 582
    (Bach=Say/ Passacaglia c-moll BWV 582)

    こちらは音源は出ていないものの、来日演奏会でも何度か演奏されており、私も王子ホールで聴きました。終演後のサイン会で私は「楽譜を出版するつもりがあるか?」という質問をしましたが、「もちろんそのつもりだ」という答えをもらっていました。SCHOTT社の「The Virtuoso Piano Transcription Series」の第12巻として今年出版されたばかりのようです。帰国後検索してみたところ、楽譜オンラインショップ di-arezzoでも入手できるようです。


    ----(ご参考)Amazonでの入手方法----

    2008年04月12日

    カンツォーナ ニ短調 BWV 588

    カンツォーナ ニ短調 BWV 588
    Canzona d-moll, BWV 588

    ストラーダルが手稿譜として残した編曲の中に、この曲が含まれていました。
    原曲はバッハの初期のオルガン曲(とされている)で、厳かな雰囲気を持つ対位法的な楽曲です。実は今まで、初期の作品だと勝手に侮っていたのかもしれませんが、この原曲はチェックしておらず知りませんでした。こんな良い曲があったとは。今回ストラーダル編曲の手稿譜を浄書することで、強くこの曲の魅力に惹かれました。まだまだこういう発見がきっとたくさんあると思うだけで、ますますバッハの音楽の研究熱があがるというものです。

    曲は大きく2つの部分からなり、どちらも4声のフーガになっています。以下の譜例はそれぞれのテーマですが、テーマに関連があるのは明らかです。第1部は緩やかに展開されるのに対して、第2部は動きが感じられます。

    第1部
    Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 1st part

    第2部
    Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 2nd part

    ニ短調という調性もあり、曲の雰囲気は最晩年の作品、「フーガの技法」に通ずるものがあると思います。そして対旋律としての半音階との調和が見事です。

    さて、これをピアノで弾くとどうなるか。旋律・対旋律ともにピアノの音色で聴くとよりくっきりと聞こえ曲の輪郭が見えてくるので、これがまたとても魅力的です。ストラーダル編の手稿譜を浄書した副産物としてMIDIファイルができましたので、譜例と共に掲載します。機械の演奏ですが音として聞くことでイメージが伝わるかと思います。

    第1部midi
    Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 1st part

    第2部midi
    Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 2nd part

    2008年05月02日

    コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766

    コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766
    Chorale Partita 'Christ, der du bist der helle Tag' BWV 766

    先日の記事で取り上げた「バッハの主題による幻想曲」の中心となるバッハの原曲、コラールパルティータ「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766が、ストラーダルが手稿譜として残した編曲の中に含まれています。この曲も私が浄書したので、その一部をMIDIファイル付きで紹介します。

    曲の構成としては、まずコラールの主題を提示し、その後6つの変奏が繰り広げられ(全部で7つの変奏)、最後に主題が回帰します。原曲のオルガンでも第6変奏までは手鍵盤のみで演奏でき、最後の第7変奏でペダルに主題が現れ5声で力強く締めくくられます。以下の楽譜は、ストラーダル編のコラール主題部です。

    コラール主題midi
    Theme - Chorale Partita 'Christ, der du bist der helle Tag' BWV 766

    ストラーダルの編曲では、第1~第6変奏の途中までは比較的おとなしく、強弱やペダル記号の追記以外はほとんど原曲と同じです。あたかもクラヴィーア曲のような趣ですが、第6変奏の途中から次第に和音が拡大され、第7変奏で盛り上がりの頂点を築きます。以下の楽譜が第7変奏、一見複雑そうに見えますが、演奏はさほど難しくありません。特にこの第7変奏は強弱の対比も見事で、ピアノで演奏することにより、より華やかさが前面に出ると思います。なおこの第7変奏も、ブゾーニの「バッハの主題による幻想曲」で使われています。

    第7変奏midi
    7th Vars. - Chorale Partita 'Christ, der du bist der helle Tag' BWV 766

    バッハのオリジナル曲で、ゴルトベルク変奏曲が圧倒的な存在感を示しているとはいえ、モーツアルト等の後世の音楽家と比べてピアノで演奏できる変奏曲の数が少ないのは事実です。こうしてピアノでバッハの変奏技法を楽しむというのも一興だと思います。

    2008年06月04日

    マタイ受難曲 BWV 244 より「われらは涙してひざまずき」

    マタイ受難曲 BWV 244 より 「われらは涙してひざまずき」
    'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244

    ストラーダルが手稿譜として残した編曲の数々を見たときに、いち早く「弾いてみたい!」と思った曲で、真っ先に浄書し、先日の演奏会で初めて人前で弾かせてもらいました。1921年に編曲されたまま忘れ去られ、去年まではチェコの博物館に自筆譜として眠っていたものなので、おそらく日本初演だったのではないでしょうか。

    原曲はあのマタイ受難曲の終曲であり、時間にして約3時間にわたる音楽の締めくくりとして感動を誘う大合唱です。マタイ受難曲に関する詳細な解説は世にたくさん出回っているため、ここでは割愛します。

    さてこの曲をピアノで弾くには相当無理があると思われますが、ストラーダルは繰り返しごとに和音を分厚くしてゆき、壮大な楽想を果敢にピアノで表現しようとしています。まず冒頭部の楽譜を見てみましょう。以下のように比較的まともな音の使い方で曲が始まります。

    Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244

    これが、展開を経て再現される箇所では、以下のようになってしまいます(4小節目)。左手にいたっては3オクターブにわたるアルペッジョ和音。唖然とさせられます。

    Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244

    ストラーダルには失礼かも知れませんが、この編曲に関しては必ずしも記譜された全ての音を弾く必要は無いと私は考えます。現実的に演奏可能な程度に音を減らしてもある程度は同じ演奏効果が得られると思い、独自に手を加えました。

    一方で、ストラーダルの編曲では終始、中・低音域の厚い和音が集中していることで、若干冗長というか、もっさりと重たすぎると思います。音を減らすところで手を加えたついでに、一部のメロディー部は1オクターブ高い音域で演奏するように手を加えました。その一例を以下に挙げます。

    <ストラーダルによる結尾部>
    Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244



    <私の結尾部の改善案>
    Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244

    弱音で奏でる1~2小節目の和音は音を少なくし、力強く歌う箇所(3~4小節目)は弾き易く音を減らした低音のアルペッジョと高音域に移したメロディーで広い音域を使うように手を加えました。

    これらの改編は、当初は練習しながら思いついて書き込んでいたものでしたが、自分が演奏会に出すために何度も練るうちに改訂版としてまとめて楽譜を作り直しました。今年もまだ演奏会に出演させていただく機会が何回かあるので、ぜひこの曲も熟成させ何度か弾きたいと思っています。(よい録音が残せれば載せたいと思います)

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